Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

七十歳死亡法案、可決

「七十歳死亡法案、可決」垣谷美雨

 

この週末は、ずっと自宅にこもって読書三昧。こういう週末も幸福。

 

昨年だったか、あるユーチューバーが「老人は集団自決するべき」と発言して話題になった。批判も殺到したが、財政上の問題の解決策としては合理的である。あのナチスだって合理的だった。死刑になった政治犯の家族に、射殺に使われた弾丸の代金の請求書を送るぐらいに。本人の責任で死刑になったので、その費用を国家が負担するべきではない=自己責任なのだという、とてもリーズナブルな判断だった。

 

近未来の日本が舞台。超高齢化による財政悪化がどうにもならなくなった与党は「七十歳になったら30日以内に安楽死」という法案を強行採決して成立させる。そんな中、ある家族が描かれる。

その家族は祖母と同居する息子一人、娘一人の5人家族だ。祖母は68歳だが、転倒したことで歩けなくなってしまい、ながく自宅介護の生活である。施設に預けるための費用もものすごく高騰してしまい、とても無理だからだ。その祖母の世話は、すべて義理の娘の東洋子に押し付けられている。夫は「俺は会社で働かなきゃならん」と言って一切の手伝いをしない。娘に支援を頼んだところ、娘はそれを拒否して家を出ていき、一人暮らしをしている。30歳のOLである。

息子は幼いころから成績優秀で、帝大を出て都市銀行に就職した。だが、そこでついていけず、銀行を退職。挫折感から、家でひきこもりになっている。祖母のことは、一切手伝わない。そんな祖母は、皆の負担になっていることを自覚していて、余計に居丈高になって嫁をいびる。東洋子は、不満をずっと抱えていたが、それに耐える毎日だった。

しかし、七十歳死亡法案が成立して「あと2年だ」と思えば我慢できると考えていた。ところが、ある日、突然夫が早期退職する。65歳で退職したところで、好きなことをできる時間は5年しかないのだ。それなら早期退職して、好きなことをやるといい、夢だった世界一周旅行に出かけるという。東洋子は「私はどうなるの?」と聞けば、お前は家の中にずっといたんだから楽なものだろう、オレがいても役に立たないから、オレだけ旅行に行く、お前は今まで通り自宅で介護していろという。これで東洋子はブチ切れる。すべてを投げ出して、東洋子は手元のカネをかき集めて家出をする。

残された祖母は、大声を出して泣きわめく。仕方がないので、引きこもりの息子が出てきて、とにかく介護を始める。が、うまくいかない。父親の兄弟に支援を求めるが、彼らは1日顔を出しただけですぐに帰ってしまう。「なんだ、あんたがいるじゃないの」

困った息子は、姉に助けをもとめ、父親にもすぐに帰国しろと電話をする。姉も父も、勝手なことばかり言うが、彼らの周囲の人たちに事情を話したところ「すぐに帰れ」と言われるので、仕方なく帰ってくる。実は、その周囲の人たちが、思わぬ助力をしてくれる。一方、息子も、中学時代のクラスメイトの女子と久しぶりに再会し、彼女の支援を受ける。

彼らは、自分にできることと、周囲の助けを借りることを学び、祖母を支えるために協力を始める。

 

深刻なテーマを、ユーモアを交えて明るく描いた作品。タイトルが衝撃的だが、実は、かなり普遍的な問題をとらえているようにも思う。楽しめて、考えさせられる。

評価は☆☆。

 

むろん、介護の現実は、この小説のようにうまくいくとは限らない。いや、現実はそう簡単ではない、というのが本当のところだろうと思う。

先日、久しぶりに再会した私の同期は、病気をする前は複数の介護施設の経営をしながら現場もやっていた男であるが、介護については「とにかく、周囲の支援を使えるものはすべて使う」躊躇するべきではないと話していた。そうしないと、家族がつぶれてしまう。介護は、家族を守るためにするべきだ、本人の問題はその次だ、という。

 

私は、たぶん、最後はどこかの施設の世話にならないといけなくなると思うし、やがて死を迎えることになる。

年齢を考えると、そう遠い話でもないはずだ。なるべく他人様をご迷惑をかけたくないが、本人の希望通りにゆくとは、まったく限らない。

別に孤独死を恐れる気持ちはないのだが(どうせ生まれたときは一人だし)そのあと、腐って迷惑をかけるのは気が引けるなあ。。。その対策くらいは、考えておいたほうがよさそうである。