Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

信長の原理

「信長の原理」垣根涼介

 

子供の頃から「かんの強い」信長は、友達も少なく、奇矯な言動で知られていた。しかし、彼には彼なりの理屈があった。

ある日、信長は地面の蟻を観察する。すると、一見忙しそうに働く蟻たちも「まっすぐ餌に向かって、餌をくわえてもどってくるもの」「ときどき道草を食っているが、餌をくわえてもどってくるもの」「あそんでばかりで、巣に帰るときに手ぶらのもの」の3種類がいることに気がつく。その比率は2:6:2であった。

そこで信長は、自分で馬廻衆を集めて厳しく訓練し、ふるいにかける。どんな集団でも、上位2割しか働かず、6割は日和見で動いており、残り2割はやる気がない。なれば、2割の優秀な者だけ集めれば、大軍に対しても互角に戦えるだろうと。そして、実際に桶狭間において、それが正しいことを証明した。が、その働きぶりは、なぜか信長が期待したほどではなく、辛勝であった。

天下統一を進める信長は、ある日、羽柴秀吉をつかって実験を行う。大きな蟻の巣穴で、蟻たちをつまみ上げて選別し箱に入れて、上位2割の蟻だけを離してみた。すると、その蟻たちの働きぶりは、やはり上位2割が働き、6割はそれなりで、2割は怠けていた。次に、ほどほどの6割を放してみた。すると、その蟻の2割が熱心に働くようになり、6割は元通りそこそこ働き、2割が怠けるようになった。信長は悟る。上位2割だけを編成しようしても無駄である。その中で、さらに2割がより働き、6割は働きが鈍ってそこそこ働くようになり、2割は動きが悪くなるのだ。

そこで、はたと気がつく。織田軍団の佐久間信盛柴田勝家丹羽長秀滝川一益羽柴秀吉、そして明智光秀。6人いれば、必ず「だめな2割」一人か二人は出る。誰だ?

そして、ついに筆頭家老の佐久間信盛を放逐する。目に見えて、働きが鈍っていたからだ。岐阜城の城番の林秀貞も追放した。同じく、働きが鈍っていた。俸禄が高く、働きの鈍ったものは不要として切り捨てる。これは、自然の法則なのだ。。。

家臣団の中には、不信が広がってゆく。次は、誰だ?実は、信長が出した答えは、意外なものだった。それは徳川家康だ。武田を滅ぼして駿河を与えた。しかし、あとは北条を従えてしまえば、家康の周囲はどこにも領地を伸ばす余地がなく、単に大封を得た油断できない相手が残るだけである。もはや、無用の存在だろう。信長は、ひそかに光秀を呼んで、上京する家康の始末を命じるのだが。実は、信長のやり方に対して、もっとも不安を覚えていたのは、その光秀であった。。。

 

 

上下2冊の大部ではあるが、すいすいと読める。テーマに取り上げられたのは、いわゆる「パレートの法則」俗に言う2:8の法則である。どんな集団でも、上位2割が働く。上位2割がいなくなれば、残りの連中の上位2割が出てきて、やはり働く。逆に、上位2割だけを選別しても、そのメンバが全員元通りに動くかというとそうではない。その中で、やっぱり2:8の比率に分かれてしまう。なぜなのかは、わかっていない。

 

評価は☆☆。

よく言われるパレートの法則を、織田軍団に適用しようというアイディア勝負の作品だが、背景がよく書けているので、時代小説として面白さを失っていない。なるほど、こんな手もあるのか。

 

オハナシの構造として「現代人なら誰もが知っている知識を、まだ知らない世界に持ち込んで無双する」というのはラノベでありがちな構成であるわけだが、その持ち込んだ先が異世界でなくて戦国だった、、、というわけで、本書の本質はラノベである、、、というと、なんだかけなしているみたいだが、そういうわけではない(たぶん)。

令和ならではの小説の作法、、、ということで、注目したいと思います。実際に、面白いんだから、いいんじゃないかなあ。