「運命の証人」D.M.ディヴァイン。
ミステリ長編で、全部で4編から成っている。
主人公のプレスコットは事務弁護士で、先輩弁護士と共同経営の事務所を持っている。20代にして、かなりの成功を収めている優秀な人物であるわけだ。そのプレスコットは、友人のピーターが連れてきた婚約者のノラに一目惚れしてしまう。「あいつよりも、キミに早く会いたかったよ」などという、酒に酔っても言っちゃだめなセリフを言っちゃうくらい、だめなやつなのだ(苦笑)。まあ、成功者というのは、下半身はだらしない人が多いな。で、そのピーターは、仕事上のことで悩んでいる様子だったが、ある日、自宅の庭で首吊り自殺しているのが発見されてしまう。発見者はプレスコットとノラである。悲しみに打ちひしがれるノラを慰めるプレスコットは、ピーターの死後、1ヶ月あまりで彼女と結婚。そして6年後。プレスコットは殺人罪の法廷では裁判を受ける身になっていた。これが第1部で、すべてのはじまりだ。
第2部では、プレスコットとノラの結婚後、予想通り結婚生活は破綻しており(一時の情熱とか、だいたいそんなものだわね)、冷え切っている。どうやら、ノラは浮気をしているらしい。そのノラが、故ピーターの父のアーサーに呼び出されて、何やらやっている。金の受け渡しをしているのである。アーサーは、ピーターの死に関して、何者かに脅迫されており、その内容は「実はピーターは自殺でなく、殺された。その秘密をお前が握っていることを知っている」というものだった。プレスコットにも、同じ内容の脅迫状が届く。プレスコットは、金の受け渡し現場に出向いて、そこで犯人の正体を暴こうと考えるのだ。ところが、現場に出向いたプレスコットは、その指定場所の電話ボックス内で、女性の死体を発見する。その女性は、プレスコットの事務所の秘書だった。驚いたプレスコットは死体からナイフを引き抜いて、血まみれになり、べったり血痕の指紋がついたナイフとなってしまう。これが第2部。
第3部で、プレスコットの裁判となり、ピーターの死に際してアーサーとノラがやった工作が明るみに出る。ピーターは、事務所の金を着服していたのだ。それを隠蔽したのがアーサーとノラだった。プレスコットは、陪審により、なんとか無罪判決を勝ち取る。これが第3部。
第4部では、なんとかシャバに戻ったプレスコットが周囲から冷たくあしらわれる描写となる。「疑わしきは罰せず」の原理で無罪を勝ち取ったものの、周囲の人間は、ピーター殺し、女性事務員殺しの犯人はプレスコットだと思っているのだ。
にっちもさっちもいかないプレスコットは、真犯人を見つける以外に策はないと思い、独自の捜査を始める。アーサーやノラに当時の事情を聞き、さらに自殺したピーターの検視をした医者(すでに故人となっている)の未亡人に会い、おおきな手がかりを得る。ついに、プレスコットは事件の真実にたどり着くのだが。。。
主人公のプレスコットを取り巻く濃密な人間関係が、作品の大きなカギとなる。事務弁護士が法廷に立たされているという、衝撃的な出だしから始まる連作短編と読むこともできて、読み始めると停まらない。
評価は☆☆。
相当に面白い。
この人の作品は、過去に「悪魔はすごそこに」を読んだことがあったが、これも二組のひどく近い関係の婚約者カップルを巡って事件が起きる話で、同様に濃密な人間関係が底流にあった。英国の地方の街を舞台に選ぶため、必然的にそうなるのかもしれないが、おかげで翻訳小説にもかかわらずストーリーが頭に入ってきやすくて、読みやすさは抜群だ。英国版横溝正史か(苦笑)。
この人はすでにかなり前に亡くなっているのだが、かなりの作品が翻訳されており、好評なようだ。日本人向きなのかもしれない。次も機会があれば読んでみたいと思った次第である。