Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

流沙の塔

「流沙の塔」(上・下)船戸与一

意図しない再読である。昔読んだ本が文庫化される。買って読み始める。それで「ああ、、、しまった」である。老化と無聊をまぎらわす飲酒のために、私のもともと大して良くない脳みそがどんな有様だか、だいたいわかるというものだ。情けない。

主人公は、捨て子で、横浜の在日華僑に拾われて育てられた。今では、華僑のもめ事の解決をする小さな事務所を構えている。
ある日、自分を拾ってくれた華僑の息子の愛人だったロシア人の若い娘が殺されてしまう。その遺留品のナイフの産地を追って、在日華僑の友人がいる中国大陸に行く。東トルキスタン。ここで、トルキスタン独立運動と華僑ネットワークの麻薬取引があり、中国公安が追っている事件に、知らず知らずに主人公は巻き込まれていくのである。

やっぱり船戸与一は面白い。ふてぶてしく、おおらかで、したたかな男達の物語である。

東トルキスタンは1930年代に、中国に対する牽制目的で日本の軍部が協力し、馬仲英将軍が独立派に味方したことで建国に成功する。しかし独立政権は、純粋のウイグル人を優遇し、漢人やその混血は軽んじる政策をとった。これに反発した馬仲英将軍は再び謀反。東トルキスタンはあっという間に瓦解してしまう。
トルキスタン独立派は、主人公にこう言う。
「日本人は、中共に前の戦争の負い目があるせいで、言いなりになってばかりだ。その方がカネを稼げる。だけど、ウイグルやモンゴルにはしらんふりじゃないか」
この本が出版された当時の1990年代は、まさにそうであった。
今でも決して充分ではないが、ネットのおかげで、マスコミの言論統制が暴露され、東トルキスタン問題も関心を集めるようになってきている。時代は少しづつではあるが、変わりはじめている。

評価は☆☆。
何度読んでも面白い。特に、間垣という馬仲英軍に若い頃従軍していたという日本人の老人が、とてつもなく魅力的なキャラクターである。物語に引き込む「船戸魔術」が炸裂し、各々の勢力の思惑が入り組む有様も実に面白い。船戸作品としては、ちょっと迫力不足かも?とは思うが、なかなか素晴らしい作品である。オススメ。