Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ニコチン・ウォーズ

「ニコチン・ウォーズ」クリストファー・バックリー。

主人公のニックは、40過ぎバツイチで、タバコロビイスト団体のスポークスマンをしている。彼は、かつてはニュースキャスターだった。ある日、とんでもない勘違いをして「大統領が死んだ」と放送してしまい、その職をクビになる。で、「住宅ローンを払うために」この職業につく。愛想をつかした妻は離婚。
タバコ産業は、禁煙キャンペーンが大敵であるので、これと戦うためにニックはテレビに出演し、禁煙派の論客をこてんぱんにやっつける。
そんな彼の活躍を、この団体の理事長「キャプテン」が目にとめる。ニックは目出度く、上司をさしおいての大抜擢。ところが、彼はある日誘拐され、全身にニコチンパッチを貼られて放置されるという事件に遭遇する。危うく死亡するところを、難を逃れる。
この事件で、FBIの捜査が動き出し、なんと被害者であるニックの身辺を洗うのであった。彼らは、どうやら事件はニックが悲劇のヒーローになろうとして仕組んだ狂言だと思っているらしい。
身に覚えのないニックは、当然この疑惑を否定するが、彼の自宅から動かぬ証拠が発見されてしまう。そして、自殺を図ったニックだったが、忽然と悟った彼は、自ら犯していない犯罪を認めて刑に服することに決めた。。。

私も禁煙した人間だが、最近ようやく日本でも「嫌煙権」だの「ポイ捨て禁止条例」だのが出来てきた。愛煙家はさぞつらい日常を送っておられることであろうが、米国の状況はそんな生やさしいもんではないらしい。デブと喫煙はそれだけで「自己管理能力ナシ」と見なされて、出世の道が閉ざされる。映画の中でタバコを吸っているのはギャングと汚職警官だけ(どちらも、いつ死ぬかわからないということ)という有様。公共の場所での喫煙はすべて禁止。
こんな状況があるから、ニックの反論「これじゃナチだ、独立宣言違反だ、我々の自由はどこにいった」という主張も一面説得力があるのだな。しかし、ニックの主張はそういう「もっともさ」を持ちつつ、どこまで行くのかというレベルの「屁理屈(爆笑!)」であり、これを読むと抱腹絶倒間違いなし、という代物である。
こりゃ必読ですよ。

評価は☆☆☆。最高傑作、よまなくちゃ損、ですよ。おもしろい小説だけど、ラストは思わず考えさせられる。私自身の仕事についても考えてしまった。健全な批判精神、という意味でも大変考えさせられる。素材の選択のよさ、よく練られたプロット、爆笑の機知、そして一方で全編に漂う哀感。

ところで、この小説、日本のことがよく出てくる。書かれたのが80年代なので、当時の日本は飛ぶ鳥を落とす勢いだった。
スシは「1個100ドルもする、透明な生魚を食わせる料理」
カロウシは「毎日23時間働く日本の管理職が、ある日ギンザで夕食を食い、そのまま路上に倒れて帰らぬ人になること」
キチガイの所業が「捕鯨
柔術は「日本の護身術」
新作映画のストーリーが「FBIがルーズベルトスターリンの仲が良いのを懸念してルーズベルト暗殺。後釜にすわったトルーマンが日本に原爆を落とす」(JFKの焼き直しとバレバレ)
といった具合だ。
こんな時もあったんですなぁ。

ところで、私が禁煙したのは、命が惜しくなったからである。つまり、タバコを吸い続けられるだけの度胸もなかった腰抜け、ということだ。
で、やめて分かったことは「タバコをやめるくらい、簡単だ」ということであった。「禁煙は難しいことだ」というイメージの流布そのものが、実はタバコ産業の陰謀ではないか?と思っているのだけどね(笑)