Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

Uボート113最後の潜行

Uボート113 最後の潜行」ジョン・マノック。

本作品は、あくまでフィクションであるが、荒唐無稽ではなくて綿密な知識によって裏付けられた戦記小説であり、そのリアリティは「実録」ではないか、という錯覚さえ起こさせる。
物語は、カリブ海で著者が、海面に重油の小さな帯を発見し、原因を潜水調査するところから始まる。その重油もれの原因は、海底に沈没した古い潜水艦であった。
上陸しレストランに入った著者に、ある老人が話しかける。それは、海底に沈む潜水艦「Uボート113」の物語であった。
第二次世界大戦中、ドイツは通商破壊のためにアメリカのカリブ海Uボートを派遣する。その中の1隻がU113であった。
ところが、洋上で補給中に、米航空機による攻撃を受け、U113は損傷し、重油も失う。母港に変える油も足りず、プロペラは破損しているために、思うような航海ができない。
この状況の中、U113の艦長シュトルーマーはかつて取引したケイジャン達と、再度接触を行う。ケイジャンとは、フランス系米国移民であって、英系とは交わらず、政府に非協力的な人々のことである。
彼らと交渉して、U113を密林の中の入り江に隠匿し、修理しようと試みることになる。
アメリカ人になりすましたドイツ海軍士官達は、潜水作業船をチャーターすることに成功するのだが、その船主は戦争でナチの拷問に会い、片手を失った人物であった。。。

とにかく面白い。
傷ついた艦を、どうやって隠し、ドックもない場所で修理するのか?プロペラをどうやって手に入れるのか?
これら難問に、冷静かつ鉄の意志を持つシュトルーマー艦長以下の乗組員が立ち向かうのである。
そして、彼らに協力するケイジャン達の時代を超越したような不思議な生活ぶり。魔法使いの老婆がいい味を出している。
それから、潜水作業船の乗り組み員達と、潜水艦の乗り組み員の間の悲しい友情。

評価は☆☆☆。久々の大傑作、よまなきゃ損の名作登場と大推薦したい。戦記といいつつ、実に立派な海洋小説であります。

潜水作業中に事故が起こり、作業船の船員が海底から脱出できなくなる。
それを察知したUボートの士官が、彼を救助する。無事救出して喜ぶ皆。
作業船の船長は、ナチのために片手を失ったから、ドイツ軍人をひどく憎んでいる。「どうして、敵国人を助けた?」と聞く。
Uボートの艦長は答える。「海の男だからだ」
そして、「今の我々は、傷ついて母国に帰りたいだけなのだ。協力してくれないか」と船長に頼む。
船長は言う。「だが、しかし。そうしたら、あんた達は、また商船を沈めるだろう」
Uボートの艦長は、答えられない。乗務員を故国に連れて帰る責任がある。勝つために、少なくとも多少はマシな負け方をするために、最後まで戦う義務がある。
だけど、目の前の男を憎むことはできない。おまけに、ナチどもがろくでもない連中だと、自分もよくわかっている。
そして、二人は結論を出す。

屈指の名場面が目白押し。すごい小説である。これだから、やめられんのだよ。
フランス語やドイツ語が乱れ飛ぶだろう原作を、見事な翻訳でもある。この訳文をみよ!訳者は村上和久氏。すごい仕事をしたと、ただ激賞しかありません!