Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

日本消滅

「日本消滅」(ジャパン・ナッシング)牧野二郎。副題は「IT貧困大国・再生の手だて」

新書ブームである。
活字離れが叫ばれてひさしいが、特にマジメな本が売れなくなった。
ところが、なぜか新書はよく売れる。これを出版社が見逃すわけはない。
で、各社から新書がぞろぞろ。結果、粗製乱造となる。

本書だが、これはすごい。
著者は弁護士だから、本人の専門分野である法的規制については、さすがの知見がある。
日本の著作権法では複製は私的利用に限って認められるわけだが、いわゆる検索エンジンのキャッシュは明らかに複製だ。
かつては国産検索エンジンがあった(千里眼等)が、検索対象サイトにすべて複製の許諾をとらなくてはならないため、登録サイト数が遅々として増えなかった。
対する米国は、著作権フェアユース規定があって、不特定多数の公共的使用については著作物の複製が認められる。
このため、グーグルは世界を席巻したのだ、という。
ここまでは、なるほどと思う。

しかし、だからといって、ヤフージャパンがグーグルに追いつかれる理由までが手登録による著作権の問題だというのは、さすがにどうか。
すでにヤフーだってロボット検索だし、キャッシュを海外サーバにおくくらい、もともと米国のヤフーにできないわけがない。
単に、手登録ではロボット検索に勝てないだけの話である。やや牽強付会かと思う。

そのあとの、教育問題と財政問題に至っては、まさに一般論以上のなにものでもない。

すごいのは個人情報保護法のくだりで、個人情報保護の行き過ぎを憂えるあまり「個人情報は個人だけでなく、その人とかかわる社会の共有物」として「内心の自由にかかるもの以外は保護する必要はない」というのは、極論がすぎる。
個人情報保護をきちんと行おうとした場合に、最良の対策がそもそも「個人情報を保有しないこと」であるのは明白である。
いくら個人情報保護を厳格に行おうとしても、リスクをゼロにできないからである。
この問題は、個人情報の漏えい事故を起こしたときのペナルティと、個人情報の利用から得られるメリットの相関問題であろう。
ペナルティが高すぎるから、個人情報利用に対して消極的になるのであって、個人情報の定義そのものからひっくり返す理屈はドラスティックすぎないか。

というわけで、評価はナシ。
うーん、えんえんと床屋政談を聞かされたような気がする本である。

昼下がりの午後、ラジオの音声で、本書の朗読を聞きながら、床屋のオヤジに顔を剃ってもらったら、とても気分がよくなるに違いない。
その程度の聞き書きと思う。
これで新書とは、、、ブームはホンモノ、ということなんでしょうなあ(苦笑)