Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

仮面の日米同盟

「仮面の日米同盟」春名幹男。副題は「米外交機密文書が明かす真実」。

米トランプ政権が仕掛けた対中貿易戦争は両者一歩もひかず、報復合戦の様相を呈している。
直接的には、中共が米国に売っている金額のほうが圧倒的に多いので、関税合戦をすれば中共の負けである。
しかし、では米国が勝つかといえば、そうでもないはずである。
関税がかかるぶん、米国の消費者は高い商品を買わなければならないからだ。
中共以外の国からもっと安い商品を仕入れられれば良いのだが、そんなルート先はおいそれとは出てこない。
そして、トランプが主張するように米国内の製造業が復活してモノを売り出すまでは相当の時間がかかるし、それらの商品が支那製品よりも安くなることはない。
結果、消費は冷えるだろう。
トランプは就任時に大幅な減税を打ち出したが、そのぶんの財源が対支那貿易の関税に置き換わったことになる。
これは消費税の値上げと同じであり(末端価格の上昇率で考えるともっと悪いかもしれない)結局、米国民はこのコストを負担しなければならないわけだ。
トランプの減税を朝三暮四というのであろうなあ。

さて、そこで、である。
米中対立が深まって、日本にもとばっちりが来て、いよいよ尖閣に攻め込んでくる事態になったら、米軍は防衛をしてくれるか?
「ノー」だというのが本書の趣旨である。
その根拠は、2015年の日米防衛ガイドラインである。
そこには、米軍の役割は日本の防衛に対して「suprimental(補助的)」であり、防衛活動は「may(してもいい)」だと書いてある。
これは、以前のガイドラインにはなかった表現である。

このような立場を米国がとるようになった時点を、情報公開された機密文書によって遡ると、沖縄返還の時点であることがわかる。
それまで、沖縄は米国の施政下にあったわけだが、これを日本に返還するにあたって中共および台湾からクレームがついたのである。
米政権内では中共寄りの勢力も出てきていたので(キッシンジャーによる電撃訪問の直前)米政権は揺れるが、キッシンジャーが「中共の主張はそもそも米軍が沖縄を施政権下におくときには中共中華民国ともに一切の異議はなかった。1970年になって突然言い出したモノで根拠がない」とニクソンに上申し、これは退けられる。
しかし、台湾は親米政権なので、こちらの対応について米政権は苦慮する。
とくにまずかったのが、当時の佐藤栄作首相が、問題になっていた日米繊維交渉についてニクソンに「トラストミー」と言っていたことである。
佐藤にしてみれば、沖縄返還という大義の前に、たかが繊維交渉などリップサービスしとけば良いだけの問題だった。
しかし中間選挙を控えて、有力団体からの突き上げに苦労していたニクソンは、佐藤が何もしなかったので「嘘をついた」と激怒する。
そのため、繊維交渉で融和的な姿勢を見せていた台湾に配慮することになったのである。
そこで米国が取ったのは沖縄返還について「施政権の放棄」とする、というマジックだった。
つまり、米国は沖縄という「領土」を返還するのではなくて、米国が持っていた「施政権」を放棄する。「領土」を返還すると、尖閣が日本領土だと認めたことになるからである。
「施政権」を放棄したので、それ以前の形、つまり日本の施政権下に戻す。それは米国にとっては単に持っていた権利を放棄し「施政権を旧に戻しただけで、領土を返還したのではない」というロジックが取られた。

キッシンジャー中共電撃訪問によって国交回復を果たす。
同盟国である日本に通達されたのは、その前日だった。
オーストラリアはそれ以前に知っていた。
この扱いに、佐藤首相は悔し涙を流したという。
しかし、彼は後々まで、自分が繊維交渉を放置したことがその原因だとは思いも寄らなかったらしい。
心の底から、眼中になかったようである。


評価は☆☆。
なかなか、面白い。丁寧な取材が光る著作である。

日米同盟があるからといって、米国人が「たかが岩」のために一緒に戦ってくれるか?というのは尤もな疑問である。
しかしながら、外交的に考えれば、それで充分なのである。
米国は「戦ってくれるかもしれないし、そうでないかもしれない」
中共の立場にしてみると、もしも尖閣に押し寄せて、米軍が出てこなければ大望の太平洋への出入り口を確保するのであるが、もしも万が一、米軍が出てきちゃったらどうなるか?
これは、容易でない事態に陥るのは明白である。
つまり、カケになるのだが、「米軍は出てこない」という予想を外したときのダメージが大きい。
そうすると、そうカンタンに動くわけにはいかないのである。
そもそも、防衛力とはそういういものなのである。
100%はない。
ただ、本当にコトを起こそうと考えたときに「相当にまずい事態」も考えておかないといけなくなれば、それで抑止力になるのである。
戦争をする気がなくても、そこに軍艦が浮かんでいるだけで、充分に外交は有利になるものである。
だいたい、この世の中に、100%アテになる同盟なんてあると思いますか(笑)

張り子のトラでも、トラはトラである。つまりは、すべて使いよう、だと思うのですなあ。