Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

弱い日本の強い円

「弱い日本の強い円」佐々木融。

ようやく「アベノミクス」の効果か?円安傾向になり、これを好感して株価は上昇中である。
しかし、このまま推移するかどうかは、わからないと思う。
何しろ、実際に行ったことは「日銀に一段の金融緩和を要請」したことと「20兆円の公共事業を行う」と表明したことくらいである。
だいたい、疑問に思わないだろうか?つまり「景気が回復する」という明るい見通しができると「円が安くなる」って、どういうことだろう?
普通に考えたら、日本が好景気になるんだから円も上がる、と思うだろう。
この「よく分からない為替」について、私のような初心者でも「なるほどねえ」と納得のいく説明があるのが本書である。

まず、著者は「円安」=「ドル高」ではない、と指摘する。
円の動きだけみていると、どちらも同じように見える。しかし、実際には、世界にはさまざまな通貨があって、それぞれに為替レートがある。
ドルが対円だけで動けば「円高」だが、実はドルがたんに弱いだけ、ということもある。その場合は、ドルはユーロに対しても、豪ドルや英ポンドに対しても下がっている。
そうすると、これは「円高」ではなくて「ドル安」である。円が高いわけでなく、ドルが「一人負け」して、そのあおりを食っただけである。
で、実は、このケースが多いのだそうだ。にも関わらず「円高」で、日本の内政問題として考えてしまうから、おかしなことになるのだという。

それから、国力と為替レートの関係だが、実は「関係ない」のである。
国力が充実していると、いかにも通貨が強そうだが、実は為替レートは単に通貨の交換比率にすぎない。
日本のように経常収支黒字国だと(つい最近、チャイナリスクで単月赤字になったが、これは例外)輸出企業は売り上げをドルで受け取って、円に換える必要がある。
そうすると、経常黒字国は、常に「ドル売り、円買い」の圧力が働く。従業員にドルで給料は払えないから、レートがいくらであろうがドルを売るのである。
となれば、当然に、常に円高圧力があるわけだ。
逆に、世界最大の貿易赤字国である米国は、常にドル買いの需要がある。
米政府は、口先で「強いドルを歓迎」といいながら、実はドル安圧力をがかかりすぎて、暴落するのを防ぎつつ、ゆるやかにドル安に誘導している。

そのほかの資本収支で考えると、短期の投資家(ファンド)はポジションをつくっても、最後はそれを解消する。つまり、利益確定である。
貿易と違って、もとがないのだから、売ったら買う、買ったら売らねば利益がない。つまり、相場に対しては中立である。
ヘッジファンドが世界を動かすわけがなく、彼らは単に世界の先を読んだだけの話なのである。

豊かな国の投資家は、さらに長期の投資をする。
その場合、国外に投資するか、海外に投資するかの違いがある。当然、利回りの高いほうに投資する。
利回りの指標は、金利ということになる。
つまり、長期的には金利差が、為替レートを決めていくと考えられる。

評価は☆☆。
先に藤巻健史の「実践金融マーケット集中講義」を一読していたため、用語の理解もでき、納得して読み進むことができた。

著者の「為替介入は無意味」「ゼロ金利下での金融緩和は効果がない」という指摘も、なるほどと納得。
すると、今回の「アベノミクス」による「円安」はない、ということになる。
安倍首相のインフレ誘導政策がむしろ注目されて、円を売り、ドルを買う動きが円高を演出したが、実際には、金融緩和を行ってもインフレに誘導することは難しい。
となれば、早晩、もとの円高基調に戻りそうである。

もう一つの要因は、原発停止とチャイナリスクで、日本の経常収支の黒字幅が大幅に減っていることであろう。
これは、円高圧力の低下につながる。
そうすると、円が下落して、それを歓迎して株高になった、ということ。
ただし、本当にインフレになれば、当然に金利が上昇し、さらにスパイラル的に円安を呼ぶはずである。
そうなると、さらにインフレになる。。。
ハイパーインフレは、そう起きるものではないが、為替の円安と併せてインフレに落ち込んだ場合は、おそらく制御不能ではないだろうか?
本書にあるとおり、売りの介入は簡単だが、買いの介入は難しい。
手元資金に限りがある中で、必死に自国通貨を買い支えなくてはならなくなったら、、、おそろしい悲劇がまっているはずだ。

実は、デフレのほうが、末端の生活者には優しいと主張する著者の意図は、そこまで考えてのことと思う。
デフレは、まだ戦いようがあるが、インフレが暴れたら、ひどく困難だからだ。

どうなるか、正直まったくわかりませんが、みんなにわかれば、そもそも相場ができないわけで。
どっちにしても、あまり生活者に痛みのないところで、うまく成長路線に軟着陸してほしいものですねえ。