Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

アメリカン・タブロイド


エルロイのLA4部作は、私ははまりまくった。まさにノワール、暗黒小説だが、もう真っ黒にぶっとんでおり、全編が人間に対する呪詛と哀惜にみちあふれていた。
そのLA4部作の次にエルロイが書いた3部作の冒頭をなすのが本書である。

物語は、ケンパー・ボイドとその部下ウォードが軸になってすすんでいく。
ケンパーはもともとFBIに勤めていたのだが、フーバー長官の指令でケネディ陣営にスパイのために送り込まれる。
そのケンパーは、最初は給料の二重取りをできるのが目的で潜入するのだが、やがてホンモノのに二重スパイになるのだ。
JFKは希代の女たらしであり、あだ名は「2分間の男」という。理由は、、、わかるね(苦笑)。
そのJFKの女の手配を一手に引き受けることでケンパーは出世していく。
一方のウォードは、ケンパーに裏切られて左遷。FBIを首になる羽目になる。
しかし、彼はマフィアと結びつき、なんでもできる切れ者弁護士として復活する。時には、殺人すらするのだ。
そのウォードとヤク中の大金持ハワード・ヒューズが結びつき、キューバ侵攻に腰砕けになったJFKを罵倒する。
そして、ついにはJFK暗殺まで事態は進むのだが、それが本書のラストシーンである。

とにかく登場人物はすべてクズ野郎ばかりなのだ。
その時々の利益のために、平気で人を裏切り、利益をむさぼる。
拷問をし、そして殺す。真相は金の力で闇に葬る。
エルロイは、この小説の冒頭で「アメリカが清らかだったことなと、一度もない。最初からないものを失うことはできない」と書いている。
まさに、もうめちゃくちゃである。

しかし、それでも、あのLA4部作には、迫力の点で一歩劣る。
怪物フーバー長官にせよ、ケネディ兄弟、あるいはマフィアのボス、ジミー・ホッファにせよ。
あついはハワード・ヒューズにせよ。
アメリカの現代史の大物の名を綺羅星のごとく並べて「こんなクズ野郎だった」と罵倒しつづけるわけだが、あまりにも悪くあろうとしすぎて、力が入りすぎているように思う。
真っ黒な裏面史というよりも、まさにタブロイド紙の「とばし記事」のように思われる。
三流紙の「とばし記事」は、いかにそれがスクープであろうとも、微苦笑を誘うものである。
一種の悪のカリカチュアになっているのである。
それが本書にも感じられる、というわけだ。

評価は☆。
著者本人にして、前作を超えられていないように思う。

ちなみに、本書は絶版である。
おそらく、日本の読者には、受け入れられなかったのかな、と思う。
充分面白い小説ではあるけれども。

へんな連想だが、応仁の乱をこの文体で書いたら面白いであろう。
あの時代も、敵と味方がくるくると変わり、なんでもありの裏切りの連続、救いのない屑野郎ばかりだったからねえ。
誰か、そんなものを書かんかなあ。