Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

史上最強の内閣

「史上最強の内閣」室積光

政治を題材にしたドタバタ・コメディである。
断じて「政治小説」ではありませんぞ、念のため。(笑)

浅尾内閣は、北朝鮮が核ミサイル発射準備をしていることを受けてテレビで演説。
「2世、3世そろいの我々が、こんな事態に対処できるはずがありません、ね。みなさん、そうでしょ」
と開き直り(笑)
「そんなときのために、本物の内閣が用意されておりました」
と京都から「史上最強の内閣」を招聘する。
お公家さんの二条総理を筆頭とする、一癖もふた癖もありそうな連中が、新幹線をお座敷列車に仕立てて、3列編成でやってくるのである。
その二条さんは
「まあ、みていておくんなはれ」
と言って、強烈な外交を開始する。
防衛大臣は山本軍治なる人物で、広島戦争の生き残りなのであった。
すっかり「ヒロシマ」の被害者だと思った朝地新聞記者は、広島戦争が「仁義なき戦い」だと知って、おおいにアテがはずれるのである。(笑)

その北朝鮮から、折も折、ネズミーランドなる遊園地で、書記長の長男だという人物が逮捕される。
この人物が、とぼけた日本語を使い、テレビにひっぱりだされ「シンちゃん」としてコメディアンとして人気爆発するのである。
ボンボンだけど、意外に馬鹿でない、当意即妙の呆けっぷりが最高に面白い、と日本人に受けるのであった。
さらに彼を救出にきた特殊部隊の4名は、日本の六本木の夜の明るさにびっくり仰天しているまま、シンちゃんの命令でこれまたテレビ出演。
4人組のアイドルグループとしてデビューしてしまうのである。
鍛え抜かれた肉体と流ちょうな日本語(特殊部隊だから)を武器に、またたくまにブレイク。
もちろん、北朝鮮の有名なアナウンサーのおばさんは「日本帝国主義の過酷極まる横暴に耐え抜いた将軍」をたたえる。
特殊部隊が救助に向かったとき、シンちゃんはSMクラブローソクムチ責めにあってヒイヒイ言っていたのであった。

あれやこれやで、ついに北朝鮮は核ミサイル発射。
ところが、これに起爆装置がついておらず、ミサイルは失速して福井の海岸へ着弾。
その不発弾を、二条総理は北朝鮮まで返却に行くのである。
「こんな出来損ない、いらんわ」と言いながら。
そこで「謝罪と賠償」を北朝鮮に求める、というオチである。
北朝鮮の主席は拒否するのだが、中韓の首脳も来ており、中共の首相から
「世界中に放映されちゃったし、言い訳も通らないから」と説得され、仕方なく
「ごめんなさい」
となり、日本はかの国に賠償を取り立てるが、その倍額の円借款を提供という話で決着となる。

まあ、馬鹿馬鹿しいこと極まりない。
つまり、面白いのである。よって、☆☆。

与太話、法螺話というのは、あるきっかけで話の風呂敷が広がって、、、というのが鉄則である。
本書では、それが「影の内閣が京都にあった!」ということである。
日本人の小説家は、欧米の小説家に比べてストーリーテリングが弱いのだが、このような法螺話の伝統はある。
筒井康隆が、かつてよく使った手法であるが、ある意味で、日本人に向いた方法論ではないか、と思う。

この本では政治を扱っているが、別に、政治でなくても構わないのであって、他の題材も、こんな感じで読んでみたいと思いますなあ。
気楽に肩の力を抜いた馬鹿話も、いいものだと思うのである。
しょせん、小説は「見てきたような嘘」なんですからねえ。