Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

社畜のススメ

社畜のススメ」藤本篤志

この著者の「御社の営業がダメな理由」は傑作だった。新書のビジネス本は、どうでもいい無内容なやつ(ただの著者の自慢話やわけのわからない独自ドグマの開陳)が多いのだが、「御社の~」は違った。
客観的に「営業量」を確保することが大事だという指摘は、正道であり、それがゆえに「目から鱗」的な驚きもあった。
そして「御社のトップがダメな理由」では、やたら舶来の「成果主義」だの「シック○シグマ」だのを有り難がる経営者に、日本的経営の良さに着目するように呼びかけていた。成功したのには、必ず理由がある。どうして、考えもなしに「流行」に飛びつくのか?という静かな怒りがあった。
そして、本書である。この本は多くの若手サラリーマンに向けられたものである。
上記の2冊とあわせて3部作という意図だろうか?

内容はズバリ「社畜になれ」というもの(笑)。いや、ほんとにそう言っている。
これから就職する若い人たちには、最近流行の「自分らしく」(世界に一つだけの花も!)を批判している。
社会人経験もなくて、働いたこともなくて、大卒でたかだか22年程度の人間の「自分」って、そんなに素晴らしい見識があるわけじゃなし、とズケズケいう。
ではどうしたらよいのか?
それには「自分らしさ」「個性」「私なりの」を捨てて、まずはひたすら社畜になれ、とアドバイスする。
ただし、がある。
人間の成長の段階として「守破離」がある。
最初は「守」だから、とにかく言われる通り、バカになったつもりで、とにかく必死にやる。理屈抜きに覚える。
次に「破」がくる。年齢にして30歳前半くらい。過去の経験をマスターした上で、はじめて「自分流」の工夫を加える。ここまで我慢しないで我流をやってしまうと、従来の経験知の意味が分かっていないので、失敗する可能性が高い。
最後に「離」がくる。もう過去にとらわれないで、新たに工夫を考える。年齢にして40台後半だ。つまり、「離」の段階では、経営陣ということになる。あらたなレールを敷かなくてはならないのである。

著者がいうのは、この「守破離」の順番が、もっとも効率よく自分の能力を上げられ、成功しやすい方法だということなのである。
もちろん、世の中にはいきなり「離」大学を在学中とか、卒業してすぐに会社を設立して、大成功する人もいる。
あの孫正義氏は、在学中に自動翻訳機を作って特許を取り、それをシャープに売って1億円の資金を得た。それが起業の資金になった。
しかし、問題は、そういう「天才」が行ったことを、我々凡人がマネしてうまくいくか、である。
そういう「天才」の例は、いわば特殊な事例を一般化するという誤りを犯しているのではないか、と著者は指摘する。
特別な天才でなく、可もなく不可もない程度の勉強をしてそれなりの学校を出て就職する人が、世の大半である。
そんな大半の人が、大成功でなくても、それなりの成功を収めて幸福に生きていくためにはどうすればいいか?
それがサラリーマンなら、サラリーマンとしての「それなりの成功」を収めるよりほかにないのである。

評価は☆☆。
この本は、過激なタイトルとは違って、実は「サラリーマン愛」にあふれた本である。
著者の誠実さが伝わってくる内容である。
この人の本は、基本的にハズレがないようだ。ゴーストライターもつけず、自分で合間をみてはパソコンで原稿を書いておられる姿を何度か拝見した。(講演会などで)
若くて悩めるサラリーマンには一読をお勧めしたい。

さて、最後に、言わずもがなの注意をしておくと。
この本の著者自身が言っているように、就職した会社がたとえば反社会的なことを行っているとか、経営者がオカシイ人格だとかの場合は、例外である。
一日も早く、そういうところからは脱出して、再起を図る必要がある。
世の中、なんでも例外はあるんだからね。

さて、では「若きサラリーマン」でなく、私のように「くたびれた50過ぎのオヤジ」が本書を読んだら、もう手遅れだろうか(苦笑)?
いや、そんなことはないだろう、というのが私の考えである。
「初心忘れるべからず」という。
毎日、切った張ったで手練手管の限りをつくして商売をしていると、ついつい、初心を忘れてしまうものなのである。
煮ても焼いても食えぬ大狸に、身も心も成り果てているときがある。
しかし、そんなオヤジでも、かつては「新入社員」だったのだ。
初心を思い出すのに、好著だと思うのですなあ。

サラリーマン諸氏には、上記の3部作として、一読をお勧めします。