Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

起業のワナ

「起業のワナ」渡辺仁。

ちょっと前まで、世の中は構造改革規制緩和で文字通り「起業ブーム」だった。その結果はどうか?死屍累々、が実態である。
本書によれば、起業する人は年間に18万人であり、そのうち成功する人は1500人に一人だと言う。

私の時代は、創業して1年で半分の会社がなくなり、3年持つのは1/10と言った。現状では、さらに厳しくなったということだろう。

ブームにのった安易な「起業」に警鐘を鳴らすのが本書である。この本は、早い話が起業の失敗例を具体的に紹介した本だ。
世の中、甘くはないということを知る意味では、役に立つ本である。

しかし、評価はしない。なぜなら、本書は、いくつかの重要な指摘が脱落していると思うからである。

私自身も、かつてバブルの終焉時代に「会社ごっこ」に精を出したクチである。今でも、そういう部類の人間に近い、かもしれない。
そういう私の経験から言えば、さらに3つの点を本書に付け加えておきたい。

1.サラリーマンはとっても恵まれている。
普通に会社に潜り込めば、給料が保証されるだけではない。健康保険だって、年金だってある。その上、雇用保険だってある。
自営業で、もしも不調に陥ったら、上記のすべてはない。国保?払えると思いますか?
年金?そんなもの、未納に決まっている。生きていくだけで精一杯だ。
雇用保険?社長に雇用保険はない。板子一枚下は地獄、そのもの。
それだけではない。たとえば、税金だって、続に「トーゴーサン」といい、サラリーマンはすべて所得が捕捉されているから不公平だ、などという。嘘である。それを上回る、給与所得のみなし控除があるのだから。
たしかにサラリーマンは、背広や靴、シャツを買わなくてはいけない。しかし、その額が、サラリーマンの「みなし控除額」以上だ、という人がいるだろうか?まずいないはずである。(年収700万円の場合、控除額は190万円くらいらしい)
その分、実はサラリーマンは得をしている。サラリーマンは、そんなに悪い商売ではない。

2.恐怖の連帯保証
社長が会社をつくって、お金を銀行から借りようとする。すると、確実に、社長個人の「連帯保証」を求められる。つまり、中小企業なんて、社長と個人の区別がないのである。
税務上は区別するわけだが、これじゃあ社長が晩ご飯のおかずに領収書をもらったり、売り上げをわしづかみにするわけである。だって、借金は会社も個人も一緒なんである。もうけだけは別ですよ、という話に説得力があるわけがない。
「やってられねえや」
一面の真実だから困る。

3.成功者は言ったもん勝ち
起業はとても難しいから、よけいに成功者が光り輝くことになる。そこで、「そのコツを是非」などと、講演依頼だのインタビューだのがやってくる。
もちろん、本人は得意満面、それどころか後進のためにもと、教訓をいろいろ述べる。
しかし、ハッキリ言って、すべて結果論なのだ。うまくいったから「ほら、俺の読みは正しかった」というだけの話である。それが、次に役立つ保証なんて、何もない。
成功で一番大事なのは、実は「運」である。
そう言ってしまっちゃ身も蓋もないわけだが、私はそう思う。

我が社は、それこそ小さな14平米の事務所からスタートして、株式公開をした。
ある年から、たいへん業績が伸びたのだが、その理由を考えるに
・有力人物の支援があった
・優秀な人物が入社した
・販売方法が確立した
というあたりである。これらの要素を見ると、実に多くの「運」が左右している。
もちろん、運が悪ければ、業績も傾くわけで、それは困ったことであるが(苦笑)
しかし、日本中で株式公開できている会社は3500社程度であり、そのうち創業社長が4割くらいなのだから、まあまあ恵まれた部類であり、それを左右したのは「運」だと思うのである。
少なくとも「実力」とは思わない。「実力」さえあればうまく行くほど、世の中は甘くない。

だから、たとえば起業してダメだった場合に「それは、あなたが甘かった、バカだった」と言うのは、あまりにもフェアではないと思うのだ。あなたが、どんなに優秀で、それなりに予見力があったとしても、起業は失敗することのほうが多いのである。
逆にいえば、成功したから「人物だ」というわけではない。

起業するのに必要なのは、まず「運」と、それから「失敗」をあらかじめ考えておくことにつきる。「敗戦」は当然だと思うほかない。みじめであるが、命までは失わないようにして欲しい。
生きていれば、そのうち盛り返すことだってあるのだ。またダメになることもある。先がわからないから人生だと思うよりほかにない。そういうものである。