Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

証言拒否

「証言拒否」マイクル・コナリー

またまた、やってくれたぜコナリー先生。「コナリーにハズレなし」とはわかっちゃいるが、こいつはもう、たまらん。
週末の土曜日から読み始めたら、もうノンストップ!
最後まで、ハラハラ、どきどきの展開で息もつかせぬ展開である。

物語は、ハラー弁護士が「リンカーン弁護士(オフィスを持たず、リンカーンの後部座席に座って移動しながら業務をこなす)」を卒業し、前妻のリビングを仮オフィスにして、調査員のシスコとアソシエイトのブロックスを雇っている。
たいそうな出世ぶりである。
ところが、所帯は増えたのに、肝心の依頼が激減。刑事事件の数は減らないが(むしろ増えている)被告が貧乏人ばかりになってしまったため、国選弁護人ばかりが流行る有様。
やむなく、ハラーは刑事弁護専門の看板を下ろして、民事に乗り出す。
何しろ、アメリカはリーマンショック後、住宅ローンの破綻は鰻登り。これらの人々の代理人を務めるわけである。

リサも、そんな依頼人の一人だった。
シングルマザーとなり、住宅ローンの支払いが滞ったリサは、住宅を差し押さえされそうになる。
ハラーは、その手続きの中に、不法行為があることを見いだし、差し押さえに対して訴訟を起こす準備をしていた。
一方、リサも、横暴な銀行に対して抗議運動を展開しており、多くの支持者を集めるまでになる。

そのリサから、ある日、電話がかかってくる。逮捕されている、助けて欲しいとの連絡である。
ハラーが警察に駆けつけると、リサは拘置所に移管されるところだった。
容疑は、リサの住宅を差し押さえしようとしていた銀行マンのポンデュラントの殺害容疑である。
ハラーは、リサの刑事弁護人を受任する。
20万ドルの保釈条件を付けられたリサだが、謎の支援者が現れて、保釈金を準備し、外に出てくる。
ヒステリックでわがままなリサだが、自分は無罪だという主張を曲げない。
ハラーは、新人アソシエイトのブロックスに「依頼者にやったかどうか、聞いてはならない」と教える。
「我々の仕事は、裁判で無罪を勝ち取ることだ」
そう言う一方で、ハラーは、リサが本当に無罪なのではないか、という心証を抱き出す。

殺されたポンデュラントは、自身も不動産投資に手を出して、大損害を出していた。
明日は我が身、だったわけである。
そのポンデュラントは、殺される直前に、差し押さえ事務を代行しているALOFT社に手紙を出している。
差し押さえ事務に不備があって訴えられる、こんなことが続くなら契約を解除するぞ、なんとか考慮しろ、という内容である。
考えようによっては「カネの無心、脅し」である。
その当時、ALOFT社のオーナーは、好調な業績を背景に会社の売却交渉中だった。
もしも、その交渉中に最大顧客の銀行との契約が解除されれば、影響は計り知れない。
ハラーは、これらの要素を法廷でストーリーとして陪審に訴える作戦をとる。
検察側は、現場近くから発見された凶器の金槌がリサの自宅から無くなったものに一致すること、リサの園芸用の長靴に被害者の血液が一部付着していたことを主張。
ハラーは、リサの身長が160cmしかなく、被害者の185cmを脳天から金槌で殴る(しかも一撃で即死)は不可能だと主張する。
そして、ハラーが準備した5番目の証人が口にした言葉とは。。。

裁判の行方と、驚愕のラスト!!


とにかく、最後までページをめくる手が止まらない。
法廷におけるフリーマン検事とハラー弁護士の戦いは、両者ともに「すれすれの」汚い手を使って、何度も判事の眉をひそめさせる。
ボクシングでいえば、ローブローの応酬である。
試合に勝つことこそ大事だ、と両者の決意は固い。

一方で、ハラーはそういう弁護士としての「正義」に、矛盾を感じている。
元妻のマギーに、内心を漏らす。
ハラーとマギーは、よりを戻すのか。ハラーは、なんとかやり直しをしたい、と願っている。
人間的な苦悩をするハラーに共感せずにいられない。


本作は、リンカーン弁護士シリーズの最高傑作ではないか、と思う。
これは、恐るべき事である。
最初に「リンカーン弁護士」が出たとき、これこそ最高傑作だと思った。
「判決破棄」が出たときも、そう思った。
今回、またも、そう思った。
次々と最高を塗り替えるのだが、このベテラン作家にして、この次なる高みを目指す姿勢はどうだろう。
コナリーは、1956年生まれだから、もはや還暦である。
本作の発表時点でも、すでに50台の後半だ。
それで、なお、このような傑作を書き続ける。
こっちは、そろそろ仕事は「上がり」にしたいと(なかなか、そうもいかないけど)思っているのに、だ。

そういうわけで、大変面白く、かつ、勇気をもらった次第である。
蛇足ながら、大満足の☆☆☆であることを、付け加えておこう。