Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ゼロの迎撃

「ゼロの迎撃」安生正。

初めて読む作家で「このミス大賞」を受賞した人であるらしい。

冒頭は海の大嵐で北の工作船が多数の工作員を失う場面で始まる。
部隊を率いているのはハン大佐である。
人民解放軍の将校が副官として付いている。
彼らの狙いは東京壊滅、都市でのゲリラ戦である。
この動機はあとで明らかにされるのだが、国籍不明部隊が東京で活動した場合に、日本の非常事態への対処の仕方を見るためであった。
それが分かれば、米軍の出動の可能性を含めて、日本周辺への侵攻計画に役立つわけである。

台風に紛れて東京湾に上陸したハン大佐チームだが、主人公の自衛隊3佐真下の提案による機動隊出動は瞬く間に壊滅。機動隊員100人以上を一気に失ってしまう。
都市ゲリラによる有事という事態を想定しないところを突かれたのである。

その後、侵入部隊は同時に複数箇所で攻撃を開始する。
官邸では緊急会議が招集され、真下は事態への対処に関する独自権限を求める。
審議官の影山はシビリアン・コントロールに反するとして反対したが、首相の判断により独立裁量を与えられる。
真下は、有能な部下3名を招集して対応チームを結成、ハン大佐の狙いと活動の分析、そして阻止にあたるのであった。
実は、ハン大佐の特殊部隊は中印国境あたりで紛争を起こしており、そのとき、核弾頭を手に入れた模様だという情報がもたらされる。
東京での核爆発という最悪の事態を想定しなければならなくなった真下たちは、その場所の推定にやっきになる。
一方、台風はますます大型化し、東京は大暴風雨に見舞われる。
隅田川、荒川の水位はどんどん上昇。
ここで、東京壊滅作戦に「洪水」があると考えた真下達は赤羽岩淵の岩淵水門に急行する。ここで荒川から隅田川に水を流し込む水門があるからである。
予想通り、ハン大佐の部隊と遭遇線になった真下チームは、尊い犠牲を出しながら、なんとか水門を確保。
一方、そのときハイジャックされた貨物機が、緊急事態のため羽田への着陸を求めてきた。
ハン大佐の狙いを見破る真下は、清洲橋でついに対決することになる。


さすがに大賞作家で、リーダビリティは見事なものである。
まるで映画のシナリオを読むようで、場面の展開も早く、次々とストーリィが流れていく。
しかし、このサスペンスが本書の読みどころではない。
本書の最大の読みどころは、法令遵守を求める影山審議官の発言に集約される、我が国の防衛体制の不備である。
都市部でゲリラが展開する事態になっても、自衛隊員は民間のビルに被害を与えることも隠れることもできない。そんな権限はない。
だから、ゲリラの射撃の標的になってしまうのだ。
さらに、そもそも実戦を想定した部隊ではないので、作戦命令が出来ないのである。
自らの危険を厭わず戦えと言われたところで、命令拒否されたら最大7年の懲役しかない。生きるか死ぬかである。懲役のほうが遙かにマシである。
それどころか、そもそも「除隊」を申請されたらお仕舞いではないか、という議論まで出る。
本書の中では、隊員に向けて首相が血涙下るメッセージを放送し、奮起した隊員が作戦に向かうことになっている。そこは小説である(笑)。
ちなみに、国籍不明の部隊が我が国の国内で暗躍しているだけなので、日米同盟も発動しないのである。外国の侵略と決まったわけではないからだ。
そして、物語の最後には、北も中共も「知らぬ存ぜぬ」を決め込むことになっている。さすがにリアルである(苦笑)。

有事法制は当然、我が国にとって必要なのだが、なかなか進まない。ご存じのとおりである。
そのような法律を作ると、戦争が起きる、というのが反対派の言い分である。
しかしながら、おそらく、戦争が起きるかどうかは、法律とは関係がないのである。
それなら、法律を作って、最悪の場合に備えよう、というのが推進派である。
この両派であるが、おそらく「話し合いで解決」することは出来ないだろう、と思う。
相手に論破されたら、反感を抱きこそすれ、賛成に回るということはありそうもない。宗教の違いのようなものだからである。
そして、この事態そのものが「話し合いで解決」することの難しさを表していると思うのである。

なんでも話し合いで解決するのであれば、そもそも戦争は起こらないわけであるが。
「話し合いで解決」を主張する人たちですら、それが出来ないのですからなあ(苦笑)。