Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

生存者ゼロ

生存者ゼロ」安生正。

先日読んだ「ゼロの迎撃」が結構面白かったので、同じ作者による「このミス」受賞作を入手。それが本作である。
本作も、主人公は自衛隊の三等陸佐である。昔で言えば少佐というわけで、組織の中でトップではないが一部隊を率いる権限のある地位が小説には都合が良いのでしょうな。

この作品は原因不明のパンデミックに対する戦いがテーマである。
北海道根室沖の海上石油基地から応答がなくなっているというので、たまたま訓練帰りで近くにいた廻田陸佐に調査指示が入る。
いってみると、海上の人工島である石油基地は、内部に多量の出血跡があって職員全員が死亡していた。
その死亡の仕方が、突如全身から出血して苦悶しながら死に至るというもので、恐ろしいエボラ出血熱コンゴ熱などのウィルス性疾患が疑われた。
帰還した廻田の隊は全員が隔離され、検査を受けることになった。
100日を経過しても症状が現れず、隔離施設を出た廻田だったが、今度は北海道本島で街一つがまるごと壊滅する疫病が発生したという。
政府は当該地域の立ち入りを禁止。
もちろん、当該地域から出ることも禁止され、非常線が張られて警察のみならず自衛隊も警備にあたることになった。
そこに、地域からの脱出を求める民衆との衝突が起こる。
ついに、自衛隊はゴム弾を発射し、実力で民衆を排除する自体に陥る。
政府は、感染症性対策は地方自治体が主としてあたるとの原則論を曲げず、それ以上の応援を拒む。北海道知事はなすすべがない。自治体で対応できる事態ではないからである。
そのうちに、当該地域内の有志によって仕立てられた船舶が北海道本島を脱出し、上海に近づく。
これを警告の上、人民解放軍の軍艦が撃沈する。日本政府が感染症に対して対策をとっていない、中国は人民を守るためやむを得ず撃沈したと声明がでる。
他の国も相次いで、日本からの輸入品制限や渡航制限に踏み出す。円安はボロボロに進行するが、いくら安くなっても製品を買ってもらえないのだから無意味で、国際経済上、日本は危機に瀕する。
ここで慌てた政府はアメリカと協議し、ついに北海道の封鎖地域をサーモバリック爆弾で焼き払う計画を立てる。
高熱の爆弾で、生存者もろともウィルスを焼き払えというのである。
一度や二度でウィルスを死滅させることはできないと異議が出ると、何度もやるという。
いまだ、感染経路も感染源も特定されていないが、初動が遅くなった政府は逆に焦っていた。
一方、廻田は生物学者らを引き連れて、事の発端の海上油田基地に再調査に向かう。
そして、ついに疫病の真の原因を解明する。
実は、疫病はウィルスそのものが原因でなく、そのウィルスがシロアリにとりつき、取り憑かれたシロアリが凶暴な性質に変化して人体を食い荒らすことから起きるのである。
ことの次第を本部に報告した廻田は、次のパンデミック新月の夜だと予告する。
どういうわけか、新月の夜にこのシロアリが活発になるからである。
そして自衛隊がついに戦後初の防衛出動。相手はシロアリである。
新月の夜、大群となったシロアリが道路を埋め尽くし、人間に襲いかかる。
火力を使用し、懸命に応戦する自衛隊。ついに戦いの火蓋は切っておとされた。。。


さすがに「このミス」対象を受賞した作品で、まるでSF大作映画を見ているような大掛かりな設定、目まぐるしい展開に激しい戦闘シーンで、手に汗握らせる。
先に読んだ「ゼロの迎撃」もそうだったが、映画のシナリオを読むようなヴィジュアル豊かな描写がこの人の持ち味であろう。
その割に、ストーリィを進めるための場面転換がうまくて、次々に読ませる。リーダビリティの高い作品である。

とはいえ、作品の深みや面白みは、私見では「ゼロの迎撃」が遥かにまさる。問題意識の違いであろう。
本作は、パンデミックに題材をとったパニック小説で、派手なわりには内容が薄いのは仕方がない。
評価は☆かなあ。

この週末は、日差しが強くてむやみと暑いのに、風ばかり恐ろしく強くて、外出にはまったく不向きであった。
あっさりと諦めて、猫とゴロゴロ、本でも読んで過ごす。
隣で寝ている猫が、薄目を開けてこっちを見ながら、時々しっぽでふわふわと、なぜか私をなでてくれるのである。
どうやら、私の母親にでもなった気分らしい。
おかげで気持ちよく、本を読んでいるつもりが、いつしかウトウトと眠ってしまう。
中年オヤジと三毛猫が並んで、おかしな昼寝の風景である。

でも、こんなのが意外に幸福なんですよね。