Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

日なた弁当

「日なた弁当」山本甲士。

主人公は地元の住宅メーカーをリストラされた49才の男である。
代わりに紹介された系列の派遣会社ではスタッフと思いきや、なんと派遣社員として登録される始末。
むろん、仕事など来ようはずがない。無職である。
やむなくハローワークに行くが、状況はどこも同じ。
奥さんには小言を言われるし、娘の手前、毎日今まで通り出勤するふりをする羽目になる。
公園で空を眺めて過ごすのだ。
すっかり落ち込んでいたある日、ふと思いつく。
公園で拾ったどんぐりだが、これは食べられるんじゃなかろうか?
図書館で調べてみると、たしかに食べられることがわかった。
フライパンで煎ってみると、意外にうまく、酒のツマミになる。
これに興味を持ち、男は次に食べられる野草を探し、さらに川で魚を釣ることになる。
そのへんの川にいる魚でも食べられるのである。

そうして、すっかり自主採集生活を身につけた頃、妻にまだ就職先は決まらないのかと責められて、苦し紛れに男は思いつく。
そうだ、これで弁当屋をやったらどうだろう?
意を決して、男は会社員時代に世話になり、今は高齢のため休業している弁当屋の親父に相談する。
店舗と看板を貸してくれ、売上は折半という約束である。
かくして、男の「日なた弁当」が開業することになる。。。


世相を反映した面白い小説である。
評価は☆。

日なた弁当450円が軌道に乗って1日40食を売っても月10万円ほどの収入にしかならない。
これでは裕福とは言えないだろう。
しかし、男は早期割り増しの退職金をもらっている。
娘の学費はそれでなんとかなりそうだし、奥さんも働いているので、当面の生活はなんとかなるレベルであろう。
すこし年金が減るが、それは致し方ない。
住宅ローンの返済が終われば、なんとか食べてはいけるかな。
何しろ、弁当の残りが出れば自家消費なので、食費もほぼタダなのである。
これで楽しくやりがいがある仕事があれば(定年もないしね)それでいいのかもしれない。
そういう幸福の形はどうだろうか、ということだろう。

個人的には、これはこれでアリだと思うのである。
カネがあれば、色々なことができますが、それで満足するかどうかは別の話。
本人が幸福だと思えるのが一番である。
ジョニ黒なら幸福でブラックニッカだと不幸だとか、そういうことじゃない。
実際、ブラックニッカを2~3杯引っかければ、私は充分に幸福になれますからねえ(笑)

世の中の仕組みは、基本的に優勝劣敗である。
なので、そういう思考をするように、我々は子供の頃から育てられる。家も学校もそうだ。
だけど、そうやって競争して、誰もが勝てるわけでもなく、仮に勝ってもそれが永続するわけでもない。
そして、いずれ、誰だって年は取るのである。競争の列から身をひくときがある。
であれば、少し早く「下りる」手だってあるだろう。
麻雀だってそうである。オール突っ張りでは、結局勝てないのである。
適当なところで、形勢がよろしくなければ、ムリせずに下りるのも手なのだ。

楽しい「下り方」を考えてみてもいいじゃないでしょうかねえ。