Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

言ってはいけない中国の真実

言ってはいけない中国の真実」橘玲

米中対立で支那経済がスローダウンしている。果たして、習近平主席のいうとおりに、安定成長路線に移行できるのか?
今の支那を見ていると、どうも日本のバブル時代を思い出すのである。
「ジャパンアズナンバーワン」と持ち上げられた挙げ句、貿易摩擦を起こして引きずり降ろされた。
あのパターンを、そっくり踏んでいるような気がするのですなあ。
で、ぼちぼちと近年の支那経済本を読んでいる。
支那経済は崩壊する!!」という類の本は、もう10年前からバンバン出てて、ご存知のように一向に崩壊しないので、この種の本はすべて嘘つきである。(笑)
であるから、そういう本は相手にしない。
しかし「支那経済は今後も大丈夫、世界一の覇権国家になる!」というやつも大いに怪しい。
よって、中道なところを探して読む。
本書もそんな一冊である。

冒頭から、すごい鬼城(支那語でいうゴーストタウン)の写真がどんどん掲載されている。
大規模経済開発のあとである。
高層マンションや公共施設、工場をつくったものの、価格が高騰して売れないので、まるで映画のセットのような近未来的風景が出現しているのだ。
あかあかと照明のついたビルはほぼ無人なのである。
著者は、支那経済を考えるときの起点は「とにかく人が多すぎる」ことだという。
考えてみれば、中共の省ひとつがASEANの国ひとつよりも大きいのである。
そこから、様々な現象が生まれる。

すごいな、と思った話は、日系企業に努める男がライバル企業から倍の給料でスカウトされて
「喜んでください、社長さん!私は引き抜かれました!」
と嬉しそうに退職の報告に来た話である。
日本人なら「なんだと!ふざけんな」となる。日本人は、組織を起点にものを考えるからだ。
しかし、支那人は喜ぶ。
なぜなら、倍の給料で引き抜かれたような男は、移動先でも重用され、出世して枢要な地位につく可能性が高いからである。
すると、出世した彼と、新たなビジネスができる可能性も高い、と読むのである。
つまり、発送の起点が個人なのだ。
広大な支那では、人は「関係」でつながり、その関係でビジネスをする。支那人にとっては、関係(グアンシ)こそ命なのだ。

さらに驚くべきことは、中共汚職を根絶できない理由である。
広大な支那では、いまだに地方では宗族社会である。
そこで関係者がたくさんいる。
中共ですら、これらの宗族による関係に頼らなければ、命令を行き届かせることもできないし、徴税すらできない。
地方の小皇帝が、なんと首相に向かって「俺を処分できるものならやってみろ。たいへんなことになるぞ」と脅されて、実際にしっぽを巻いて退散しているのだ。
習近平主席は汚職根絶に力を入れているが、それでも汚職は絶えない。汚職根絶は、単に異なる派閥の実力者の排斥にすぎず、後任の習近平派の宗族がまた同じことをするだけなのだ。
そうしなければ、実際に国を治めることもできない。
民主主義が不可能なわけである。


評価は☆☆。
おもわず、唸ってしまった。
私は若かりし頃、天安門からようやく国際社会に復帰したばかりの支那に何度も行った。
あのとき、まさに支那は関係だけで成立する社会であった。
そうか。今も変わらないのだなあ。
大いに納得した次第である。

思うに、支那はすでに崩壊しているとも言えるし、はじめから西欧的な意味で成立しているかどうかすら、疑問である。
異質な社会というほかない。
ただ、彼らには彼らの論理がある。その論理がわかれば、理解は可能である。

とてもおもしろい。
支那にご興味のある向きには、必読の一冊であると思います。