Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

軌道離脱

「軌道離脱」ジョン・N・ナンス。

秋になって雨が続くので、休日は家で読書である。
雨の外をときおり眺めつつ、愛猫と一緒にのんびりと本を読む。無上の楽しみである。
そういうときは、やっぱりSFに限る。

舞台は近未来で、民間宇宙旅行会社が次々とサービスを開始した時期である。
宇宙旅行といっても、月まで簡単にいける時代ではない。どーんとロケットに乗って軌道を周回し「地球は青かった」と言って帰ってくる。そういう旅行である。
主人公のキップは中年のアメリカ人男性で、先妻を事故で失い、再婚している。
息子は軍の若き士官として人生を始めたばかりだが、この再婚に批判的で、家族の仲は良くない。
彼の仕事は製薬会社のセールスマンである。
妻は、彼が仕事にかまけて家庭を顧みないというので、離婚の危機に瀕している。もっともキップ自身は、家庭のために仕事を頑張っているんじゃないか、と考えている。(世のおおかたの男性と同じように)

そのキップが宇宙旅行会社の懸賞に当たって、宇宙旅行に参加することになった。
ロケットは5人乗りである。
ところが出発直前になって、乗客3人がトラブルによって乗船できなくなる。
キップは、宇宙飛行士のビルとともに、2人で宇宙に向かうことになった。キップは多少の緊張はしたものの、他の客がいなくなったぶん、ゆっくり宇宙を味わえると考える。
ところが、宇宙空間に達して早々に、宇宙船は小さな宇宙ゴミのひとつと衝突。
超高速で宇宙船内を通過した宇宙ゴミのかけらが飛行士のビルを貫通。もちろん、宇宙船も破損したが、船内の気圧は自動修復によって保たれた。
しかし、通信はすべて途絶。地球周回軌道に乗ったまま、キップは一人、取り残される。
もちろん、このまま計算上では5日間で船内の二酸化炭素濃度が限界に達して、彼の遺骸が数十年、地球を周回することになる。
操縦マニュアルを見つけたキップはなんとか宇宙船の方向を転換することに成功する。
しかし、肝心の軌道再突入するためのメインエンジンが点火しない。
このまま死を覚悟したキップは、最後に自分の思いを書き留めておこうと船内のラップトップパソコンで、自らの人生を振り返る記述を始める。
ところが、宇宙船のダウンロード機能だけが生きていて、キップの書いた独白録はリアルタイムで地球に送信される。
地球上では大騒ぎになり、三大ネットワークすべてが彼の独白録を流す事態になる。
そこで書かれている内容に、大いに人々は共感する。

キップは、船内で独白録を書くうちに、死に対して向かおうとする勇気を取り戻す。
彼は、宇宙服を着込んで宇宙遊泳を行い、破損した宇宙船内のケーブルを何本か結線し直すことに成功する。
操縦マニュアルと首っ引きになりながら、5日目の最終日に、彼は再度メインエンジン点火作業を行った。
ほとんど自由落下状態の機体を操って、グライダーのような着陸を決めることが出来るのか。。。


うーん、こりゃ面白い。
著者は現役のパイロットであるようだ。宇宙船の細かな描写がリアルで、思わず引き込まれる。
さらに引き込まれるのは、キップの独白録である。
誰の人生にも起こる平凡なこと、初恋や別れ、家族への愛が赤裸々に綴られる。
それを読んだ地上の人たちの「オレとおんなじじゃないか!」という反応もわかる。
みんな、平気な顔をしながら、実はそれぞれに苦労しながら人生を歩んでいるのだ。
そういう同士だ、ということが分かって、地上の人たちもそれぞれの思惑がありながら、この哀れな男を救おうと奮闘する。
もちろん、そうでない人もいるのだが。

評価は☆☆。
分厚いが、夢中になってあっという間に読んでしまう感じ。
これだよ、これだよ。
SFにもいろいろあるが、これはテーマも地味で、あっと言わせるアイディアも、深い思弁もない。
極めてアメリカ的なのである。
私が最初に読み始めたSFと、なんとその香りが似ていることだろうか。懐かしい50年代SFのリバイバルみたいだ。

この週末も雨模様のようだ。
面白い本があれば、雨の週末ほど心楽しいものはない。
その傍らに猫がいれば、この世の極楽ですなあ。