Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

タックス・イーター

「タックス・イーター」志賀桜。副題は「消えていく税金」

著者は大蔵省の主計官を経て政府税制調査会の委員である。当然、税金については知悉しているわけだ。
さて、タックス・イーターは耳慣れない言葉である。
税金を食らう人々、とはどんな存在なのだろうか?
本書は、その「タックス・イーター」が存在する構造を指摘したものである。

結論からいえば、タックス・イーターは「政官財のトライアングル」なのである。
まず政から言えば、これは「族議員」ということになる。
特定業界をバックに、もっと税金を出せとねじ込む連中のことである。
かつて「五賊」がいる、と当時の首相が語ったそうであるが、著者が大蔵省に在任中のころ、「五賊はどれとどれだろう?」と話題になった。
数えてみた結論は「とても五で足りぬ」というものだったそうな。
小泉改革によって郵政賊はほぼ駆逐されたわけだが、建設賊と厚生賊を筆頭として、そのほか文教賊やら外務賊、もちろん地方交付税に群がる地方賊も猛威をふるっている。
さらには電力賊(原子力ムラ)、電波賊(総務)、最近では五輪賊まで出てくるわけで、これは枚挙に暇がない。
なにしろ、政治家というものは常に支持基盤が必要なので、必然的に賊化しやすいのである。

そして、ここに官僚が絡む。官僚の仕事というのは、基本的にカネを使うことであって、カネがなければ何も出来ないという思いが強い。
どうしても予算をぶんどるという発想にアタマが向くのである。族議員は、こういう官僚にとっては頼りになるセンセイということになるのだ。
最近では、予算で目立つと批判されるというので、当初予算では押さえておき、補正予算でぶんどるという作戦を使うことも増えているようだ。
著者いわく「前年対比を予算でしか比較しないという」悪弊に目を付けたものである。どの企業の決算でも、予算で前年比較する会社はないし、そんな四季報もない。見るのは決算である。
しかし、政府だけは予算で比較する。摩訶不思議な話であるが、著者の指摘するように、これも国民を欺くためのテクニックなのである。

そして、最後に業界そのものが声を出す。
かつて、麻生副総理が通産省副大臣だった頃に「明治維新で文明開化となり、唐傘が売れなくなって洋傘屋ばかりなったといって、唐傘屋に補助金を出すかね?」と言ったことがあるそうだ。
これは的確な発言であって、いわゆる業界というものは、時代の流れで栄枯盛衰があるのが当たり前である。
ところが、日本ではいつしか高度経済成長時代が当たり前となり、ちょっと円高だと恐怖症に陥って補助金を出せという。
政府もほいほいとカネを出す。
景気が落ち込んだら補助金、為替が動いたら補助金、条約を結んだら補助金
ウルグアイラウンドで農業補助金が多額に出ることになったが、カネの使い道がない。困った農水省は高速道路規格の農道やらまったく稼働しない農業空港を作りまくった。
それで日本の農業が競争力が上がっただろうか?
実際に世界で戦っている農家はいるが、それは補助金などアテにしないで自力で質の高い農作物を作り出した農家だけである。


評価は☆。
タックス・イーターとは、つまりは日本の政治の仕組み、そのものであった。
なんたる!

最後に一言。
日本は「失われた30年」といって、バブル崩壊以後、ずっとゼロ成長に近い低成長が続いている。
やれアメリカの陰謀だ、ユダ金(ロスチャイルド)のせいだ、などという益体もない話を信じている人も多い。はっきり言って、馬鹿である。
成長に必要なものは競争で戦うことしかない。当たり前ではないか。
スマホの世界的な競争がはじまったと思ったら技適
ドローンが流行ってきたと思ったら、さっそくドローン規制。
こんなんで、成長産業が育つかね?
成長とは、競争の中で揉まれて身につくモノであって、すぐに補助金を出して規制して参入障壁をつくって保護すれば、ダメになるに決まっている。
そうしてダメになったのである。
こんな簡単な話に気がつかずに、日本はすごい、他国がいけないという話を信じ込む。そんな国民が増えれば、そりゃ成長するほうがおかしいではないか。
つくづくと感じた次第でありますなあ。