Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

善いミリー、悪いアニー

「善いミリー、悪いアニー」アリ・ランド。

 

昨年の年末に消防設備士の試験を終えて、やっと読みだした本がこれ。
早く読みたかったのだが、試験勉強をしなくてはいけないので我慢していた。
ご存知のとおり、そういう状況のときのほうが読書熱は高まるのである(笑)。どこか「イケナイことをしている」という感覚が、そうさせるのだろうな。
恋愛も、そういうところがある。世の中から不倫が無くならない道理である。
もしも「多夫多妻制」になれば、不倫は激減するであろう。。。って、当たり前か(苦笑)

で、本書だが、そういう「イケナイこと」に惹かれてしまう人間というものをがっちりと捉えた作品である。


主人公のミリーは、もともとアニーという名前だった。
彼女の母親はサイコパスの連続殺人鬼で、次々と子供をさらってきては自宅内の一室に閉じ込め、虐待して殺す。
母親は、それを愛情だと信じて疑わない。母親が連続殺人した子供の数は8人に及んだ。
そこで、アニーはついに実の母親を警察に通報する。
アニーは心理学者のマイクに一時的に引き取られ、母親の裁判で証人として証言することになる。
また、プライバシー保護のため、その名前をアニーからミリーへ変える。
ミリーは、新しい環境になじもうと努力する。
しかし、実の母親の記憶は、恐ろしい反面でやはり子供にとっては代えがたいものもある。
記憶の中で、母親は彼女のことを「アニー」と呼ぶ。
ミリーは、悪いアニーが自分の中にいることを自覚する。アニーは、母親に強いられてではあるが、子供の虐待を手伝っていた。
弁護士も心理学者のマイクも、それは母親が恐怖でアニーを支配していたからだ、とミリーに説明する。やむをえなかったのだ、あなたは悪くない。
しかし、ミリーは、事実が少し異なっていることを知っている。
一方でマイクの一人娘であるフィービは、ミリーを執拗にいじめる。彼女は、家の中に父親が孤児を次から次へと引き取ってくるのを嫌がっている。
「あんたなんか、そのうち居なくなるんだから」をフィービは言う。実際に、マイクは引き取った孤児を一定期間経過後に、施設なり里親なりに引き渡し、また新たな孤児を迎えることを繰り返してきた。
それは、彼の心理学者としてのキャリア作り(書籍の出版のネタにする)のためである。
しかし、居場所のないミリーは、フィービのいじめに耐えながら、なんとか自分の居場所をつくろうとする。
やがて裁判の日が来る。
証言台にたち、スクリーンで姿の見えない母親に対して証言するミリーだが、母親の弁護士による反対尋問で取り乱す。
実は、8人目の子を殺害したのは母ではなく、ミリーだった。
その子を救おうとしたのだが、それは死でしかなかった。母親と同じ考えにいつしかなっていたのだ。
それを自覚するミリーは苦しむ。しかし、彼女自身でも「悪いアニー」をどうすることもできない。
やがて、裁判が終わり、マイクはミリーを新たな里親を探して引き渡そうと考える。
いかに出来よくて美しくても、ミリーは実の子ではない。フィービに負担をかけすぎた、とマイクは考えている。
書籍の出版の準備も進んでいる。
ところが、そこで大事件が起きる。フィービが自宅の吹き抜けの手すりから転落して死んだのだ。
落胆し失望するマイク夫妻。
しかし、マイクは、実はミリーが仕組んだことではないかと疑っていた。
ミリーは告白を始める。。。


いやあ、すごい小説である。
ミステリではなくてサイコスリラーであるが、すぐれた心理劇である。
すべての登場人物が打算で動いており、そのなかで純粋に愛情を求めるのは痛々しいミリーである。
しかし、そのミリーは、サイコパスの母親に育てられて、実は誰よりも周囲を観察し操るすべに長けている。
ミリーが打つ手は、はずれない。それが恐ろしい。

評価は☆☆。
新年そうそう、すごいのを読んでしまった。


天使のように純粋に見える人間でも、しっかりと計算している部分はある。
逆に、悪魔のように計算づくで行動している人間の底に、非常に純粋な心がある。
「ほんとうの私」はどちらか?実は、どちらもそうなのだ。
ミリーもアニーも、同じ一人の人間に宿っている。ミリーがホンモノでアニーはなし、ということはない。
けれども、本性がアニーでミリーはにせもの、ということも出来ないと思う。
どちらもホンモノで、誰にだって両方が潜む。
どっちが、なんて決められない。
そんなものなんじゃないですかねえ。