Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

航空宇宙軍史1 完全版

「航空宇宙軍史1 完全版」谷甲州

航空宇宙軍史は谷甲州の代表作ともいえる連作である。
舞台は未来で、人類が太陽系への植民を開始していばらく経ったころ。
地球-月連合という、いわば「本国」と「外惑星連合」という「植民地」の利害が対立し、やがて戦争に至る一連の歴史を書き出したものである。
学生時代に、本書に収められている「カリスト-開戦前夜」は読んでいたが、最近、年代順に作品を収録しなおした「完全版」が出版されていたのを知って、まず第1巻を読んだという次第だ。
懐かしいと同時に、意外に作品が古びていないと感じた。
学生時代は遥かに遠く、もはや還暦のほうが近づいているのであるが、それでも面白く読めるのは、作品が普遍的なテーマを扱っているためだろうと思う。

本書の中では「外惑星連合」は木星の衛星であるカリストが主戦派になっている。
軍部の中で非公式の自主研究会があって、その研究テーマが「対航空宇宙軍戦」である。航空宇宙軍は実質的には地球-月連合の軍隊だが、表向きは中立ということになっているようだ。
カリストと地球の貿易交渉が難航する中で、次第に軍部の「開戦やむなし派」が力をもってくる。
これを阻止するべく、非戦派がクーデターを起こすのだが、これは失敗。
そして、このクーデター失敗を契機として、逆に主戦派が権力を掌握し、開戦に突き進んでしまうのである。

この経緯だが、今になってみると大東亜戦争の開戦経緯をなぞったことに気付かされる。
学生時代は、そういう知識が不足していたので、その符号に気づかなかったのである。
戦前の日本の統帥権独立、226事件での皇道派の失脚と統制派の台頭といった事項が頭をよぎるのである。
このあたりが、この作品がいまだに古さを感じさせない要因なのかもしれないなあ。


評価は☆☆。
やっぱり、面白いのだ。
完全版、続きも読もうと思った。
何しろ、学生時代に読んだのが、このカリストだけで、あとは谷甲州といえばハヤカワから出ていた「惑星CB-8越冬隊」を読んだだけである。
谷甲州はどちらかといえば、科学的な記述にこだわるハード系だとされていて(たとえば外惑星から地球への侵攻だと何ヶ月も時間がかかる)そんなものに血道を上げるのはくだらないと考えていたのである。
今思えば、若毛の至りなのだ。
神は細部に宿る、ということを知らなんだ。若いときは、理念ばかりの作品に突っ走りがちだ。
結局残るのは、きちんと書き込まれた作品なのだなあ。

それにしても、若かりし頃に読んだ作品を、年令を重ねて、また再発見して楽しむことができるとは。
トシを重ねるのも、案外わるくないもんですね。
最近の若い作家さんの作品にはどうしても疎くなってしまうのだが、それは仕方がない。
ジジイはジジイなりの楽しみ方、でいいじゃなかろうか、などと思うのですな。
いつまでも若いふりをするのは痛いですからねえ。