Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

闇の左手

「闇の左手」アーシュラ・K・ルグイン。

大学時代に読んで、非常に印象に残った作品。
いわゆるジェンダー問題を扱った作品は、どちらかというと金切り声系のアッチの世界系な(笑)作品が多いわけで、ジョアナ・ラスとかが典型。
もはや小説の体をなさずに崩壊している。それぐらい「心の叫び」なんだろうと思うのだが、しかし、カネをとって人に読ませる商品としちゃあどうよ?なんて思うわけだ。
そういう作品には、やっぱり魅力を感じない。苦痛は伝わるが(苦笑)
しかし、そんな「どうしようもねえジェンフリ小説」の中で、「こいつは掛け値なしに傑作」だと思えたのが本作だった。
あれから20数年を経て再読した感想は、まったく変わらない。やはり別格、小説として素晴らしい。

舞台は遙か未来の辺境惑星「冬」。その名のとおり、年中が南極並みの気温である。
人類は、宇宙に飛び出したが、そこで恒例の戦争のために各惑星が離散。勝手な進化を行うことになった。
やがて、どうにか文明を維持した惑星連合「エクーメン」が、遙か昔にバラバラになった各惑星を訪れて、開国を交渉する。
その使者が本書の主人公ゲンリー・アイである。
で、その「冬」の人類であるが、厳しい環境に適応するため、なんと「性別」を捨ててしまう進化をしていた。
つまり、発情期と平常期が分かれており、発情期以外は交尾しないのである(笑)
発情期になると、まったくランダムに男女が決定する。だから、「王様が懐妊しました」などというニュースがでるわけだ。自分が男性だった時の子供もできるし、自分自身が分娩した子供もいることになる。
使者としてやってきたゲンリーは、「冬」の住人からみれば「年中発情している、おかしな奴」だということになる。
そのゲンリーの世界を信じて、開国のために動いてくれたのが宰相エストラーベンだった。
ところが、そのエストラーベンは、守旧派の工作のために失脚、国外追放になってしまう。アイ自身も、逗留した国に見切りをつけて、エストラーベンが追放された国で開国交渉に入るのだが、彼は政争に巻き込まれて強制収容所送りになる。
そこに救助にやってきたのがエストラーベンで、二人は極寒の氷原を逃避行にはいる。。。

よく「男と女の間に友情が成立するか」などという戯れ言がある。
もちろん、友情はあるはずなのだが、相手が異性である場合、友情のはずが、、、などという展開もありがちである。
さらに友情を継続すると「元カレだけど、今は友達」などという話になる。なかなか理解が難しいわけである(苦笑)。

で、この小説の世界では、相手はふだんは「性がない」のだ。よって、純粋な友情が成立する。
ところが、その相手が、性をもってしまうのだ。相手にとっては、こっちは年がら年中発情している変態である。
このような世界の中で、しかし、確かに魂はふれあうのである。

評価は☆☆。名作であります。
もっとも、読み慣れないとか、なじめないといった感想を抱く人はいるだろうと思う。
なんというか、そういう思考実験を楽しむスタンスが必要とされる。
それでも「男女」という基本線は、たとえば「キリスト教」よりも、なじみ安い。ドストエフスキーよりは読みやすいと思うが(笑)なんの慰めにもならんわな。