Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ドリームマシン

「ドリームマシン」クリストファー・プリースト

このプリーストという作家は面白い作品を書くSF作家である。
この本はずいぶん前に出版されたものの、今まで読む機会がなかった。古本屋で偶然に見つけて購入。

主人公のジューリアは27歳の女性地質学者で、彼女がばったりと駅で6年前に別れた元恋人のポールに会うところから物語が始まる。
ポールは一種のサイコパスで、ジューリアを支配下におく性質があり、それに耐えきれずにジューリアは彼と別れたのである。
サイコパスの常で、ポールは他人の前では実に愛想よく、有能な人物でいることができる。
軽く儀礼的な挨拶を交わしたあと、ジューリアは実験施設に行く。
彼女は投射と呼ばれる実験に参加しているのだ。
これは、参加者を機械が強制的に催眠状態にさせて、参加者同士の脳を電極でつなぎ、参加者の共同幻想の中で暮らすことができるシステムなのである。
参加者には科学者たちが集められて、彼らは150年後の未来をともに夢見ているのである。
そこで得た知見を(参加者がいろいろな分野の科学者なので、彼らの無意識下にある150年後の未来のイメージが作られることになる)現代に持ち帰って活かそう、というプロジェクトである。
150年後の未来は英国は分裂していて、ジューリアたちの国はソビエト支配下に入っている。
共産党の支配がされているのだが、彼らが住んでいるのはリゾート地なので、さほど共産党の支配は厳しいわけではない。
その中で、ジューリアはハークマンという観光でやってきた年上の歴史学者に恋をする。
ハークマンもジューリアのことが気に入っている。二人は、なんとなく、前からお互いを知っているような気がする(現代では顔見知りだからだ)
そこでいったんジューリアは催眠から目覚めてレポートを書くのだが、ハークマンが催眠からすでに2年も目覚めていないという。
催眠中は各種栄養は維持されるものの、まったく運動もしないで横たわったままなので、みるみる身体は衰える。
そこで、定期的に催眠から目覚めて、報告書を書くのが参加者のスケジュールになる。
ところが、ハークマンは催眠したままで、まったく目覚めないのである。
施設側は2名のサルベージ要員を送るのだが(催眠から目覚めさせることをサルベージと呼ぶ)ハークマンはサルベージを無視するのだという。
一方、この投射実験を行っている組織に、突然ポールが入ってくる。ポールは投射実験組織の理事会にうまく取り入ったのだ。
理事会は投射実験の成果にかねてから不満を抱いており、ポールを送り込むことで改善したいと考えている。
ジューリアはこれに反対するが、ポールを参加させないと理事会は投射実験そのものを中止するというので、やむなく認めることになる。
ポールはかねてから「この実験には重大な欠陥がある」と言っていた。
ポールが参加した150年後の世界は様相が変わり、工業地帯になってしまう。
そして、そこで過去の遺産を掘り起こし、投射装置を見つける。
ポールは、装置を使って「150年前」に、メンバーを投射してしまう。
ハークマンは反対し、ポールと揉める。
ジューリアは投射されてしまう。
その150年前の世界は、もとの世界のようでもあり、違うようでもある。
ジューリアは、再び投射装置に乗って、150年後の世界に戻る。
投射の中で再投射された先が現代だったことで、150年後の世界と現代と、どっちがどっちなのか、ジューリアにもハークマンにもわからなくなってしまう。。。


莊子の「胡蝶の夢」のような話で、どちらが夢かどちらが現実か、わからなくなってしまう話である。
ある意味で、古典的なアイディアであるとも言える。
NWと呼ばれる思弁的小説が流行った時期から後で、この手のアイディアは流行った。
P.K.ディックとかが得意にするやつである。
いささか古めかしいとも言えるのだが、結構面白く読めた。
評価は☆。

困ったことに、最近の物理学における成果は、これをさらに上回るアイディアが出てきている。
「ホログラフィック宇宙論」などが、その代表的なものである。
どうも、この宇宙は我々が近くしている3次元プラス時間の4次元ではないらしい。
それで、超ひも理論では11次元だとか、量子力学上の問題を矛盾なく解決するために、次元をどんどん上げていくということになっていたのである。
ところが、それでもブラックホールの蒸発などの現象の説明が今ひとつうまくいかない。
で、最近登場したのがホログラフィック宇宙論である。
つまり、我々が観測している3次元とか時間とかは、すべて「別の世界の平面に書き込まれたデータの投影」に過ぎない、というとんでもない話なのである。
そんな馬鹿な、と思うのだが、そうすると、たとえば光のエネルギーがとびとびの値をとることなどが、うまく説明できるのである。
どこかの平面上に書き込まれたデータを「デジタル」でこの世に表現しているからだ。
こうなると、もはやSFの想定を超えてくる。
どうも、SF作家のアイディアを現実の理論が超え始めるという、恐ろしげな世の中に私達はすでに住んでいるらしい。
なんたる!!

まあ、長生きして、これらの理論の結末を見届けてみたいなあ、と思うのであるが。
私のデータがどのように書き込まれているのか?どうも、それ次第のようですね(苦笑)