フルデジタルアンプで「透明で色付けのない」音は入手できたので、もうアンプでは悩まない。
しかし、ずっと透明な音を聞いていたら、なんとなく浮気がしたくなった。
例えて言えば、水のようで、たしかに飲み飽きることはないし、いつも旨いのであるが、しかし、たまには珈琲とか酒も飲みたい。そんな感じである。
そこで、アナログアンプはほぼ処分してしまったのだが、わずかに2台を残した中からこれを引っ張り出してきた。
アルパインラックスマンのA-005という太古のアンプである。
ラックスマンはオーディオアンプの名門であるが、ご多分にもれずバブル崩壊後経営難に陥った。
で、一時期、アルプス電気傘下のカーオーディオのアルパインと協業していたのである。そのとき、オーディオ界はミニコンポの中でも音質にこだわった「ハイコンポ」と呼ばれる製品がブームだった。今思えば、最後のオーディオブームだったわけですが。
これがその時のアンプで、上級機にはDACを内蔵したA-007がある。
このアンプはオークションでジャンク品を手に入れたのだが、トーンコントロールやバランスボリウムのガリがひどくてバリバリとものすごい雑音がした。自分でクリーニングして首尾よく治したものである。
聞いてみたら、あまりに他のアンプとの違いに唖然とした。
音が太い。
普通は「太い音」というのは、低音が膨らむ一方で高音が伸びずに眠たい音になることが多いのだが、このアンプは高音まで太く出てくる。
なんとなくドンシャリでもあるような気がするし、少し歪みというか、雑音がある気がするが、そんなことはお構いなし。緊張感がまるでなくて、のびのび、ゆったりと鳴る。
フルデジタルアンプが聞かせてくれる「色付けなしの原音」みたいな鳴り方とは正反対で、潤色も脚色もばっちり、これでいいじゃんという感じなのである。
聞いていると、実に気持ちが良い。
まあ、マニア的に言えば全然ダメだと思うのだけど(笑)構うもんか、気持ちよければいいんじゃないの?という。ある意味で、カーオーディオ的な割り切りも感じるのである。特性だの性能だの言っても仕方がないじゃないかという。
で、フルデジタルアンプと正反対のこいつを引っ張り出して、鳴らした古いジャズのいいこと。
すっかり気分が良くなって、また家で音楽を聴くのが楽しくなってしまった。
このアンプを残しておいて良かったと思った。
まあ、ずっと鳴らしていると、そのうちまた飽きるんでしょうけどね(苦笑)
そしたら、またデジタルアンプに戻せばいいんである。
あるいは、もっとも「そっけないラジオの音のような」ソニーにしてもいい。
ソニーは、あまりに飾り気がなくてつまらなさすぎで、別の意味で極地なのである。
「いい音」に飽きたら聞こうと思っている。耳のリフレッシュ休暇だ(笑)
わざわざ悪い音を聞くのはバカな話だと思うが、考えてみれば趣味とは手段が目的化してしまった愚かな行為なので、もともとバカな話なのである。
バカを楽しむのが人生だと悟った次第ですなあ。