Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ダブルフォールト

「ダブルフォールト」真保裕一

 

主人公は新司法試験を合格した新人のイソ弁である。イソ弁とは「居候弁護士」の業界用語なのだが、つまりは自分ではまだ開業できず、先輩弁護士の事務所で働く弁護士である。
主人公の本條は高階弁護士事務所のイソ弁なのだが、はじめて殺人事件の弁護を任されることになる。
加害者は高階事務所のクライアント企業の工場の社長で、金融屋の社長の成瀬のところへ出向いているときトラブルになり、とっさに手に取ったのが机上に置いてあったペーパーナイフで成瀬の急所を刺してしまう。
翌日、加害者は自ら交番に出頭した。
事情を聞いた高階弁護士と本條は、殺人ではなく正当防衛の可能性もあると考える。
金融屋の成瀬がカッとなって工場社長の首を締めようとしたので、恐怖を感じた社長が抵抗したときに事件が起きた、とすれば事件というより事故である。
工場社長の首からは翌日の診察でアザが発見された。ただし、アザはすでに薄かった。
殺人と正当防衛、あるいは過剰防衛と過失致死では刑の重さがまるで違う。
弁護士は被告人の弁護のため、被害者の金融屋の成瀬がいかに平素から危険な人物であったか、証拠集めを始める。
そこに、被害者の娘がでてくる。
娘は弁護士を詰問する。殺されたのは父なのに、なんであなたがたは殺人犯の弁護をし、殺された父の旧悪を暴くのか?どっちが被害者なのかと。
悩んだ本條は高階弁護士に弁護人を解任されてしまう。
公判には、高階弁護士が立つことになった。
行き詰まる法廷での戦いのすえ、第一審では被害者の過剰防衛で3年の実刑判決が言い渡されるが、これはかなり軽い量刑である。
納得のいかない成瀬の娘とともに、本條は被害者成瀬の事件の背景を調査していく。
そこには、思いもかけない事実があるのだった。。。

法廷ミステリの変形である。
弁護士が自らの調査権を使って事件の背後を探るのであるが、それが被害者の娘とともに行われることになる。
そして、殺された被害者の成瀬も相当な悪人だったことがわかってきて、娘も懊悩する。
評価は☆。
なかなか面白くは読んだが、かつての骨太の真保作品に比べると、どうしても軽量級なのはやむを得ないか。

 

この「なんで弁護士はこんなやつの弁護をするのか」というのは、よく掲示板などでも出てくる話だ。
法的に言えば、そもそも弁護士のつかない裁判はあり得ない。
一方的に犯罪者を断罪するのなら、それは江戸時代のお白洲で良いのである。
法廷というのは、被告と原告が互いに主張と証拠をぶつけあうことで、初めて真実に迫ることができるという考えなのだ。
あえて言えば弁証法的というか、ソナタ形式というか、西欧的な物事へのけじめの付け方というものがある。
日本人のように単旋律民族には理解しにくいのだと思う。
情緒的な反応は日本人は深いと思うのだが、全体的な構造の把握という理性的な判断力が弱いのではないかと思うのである。
なお、実際の裁判では、弁護人は被告人の意向を超えた弁護はできない。
どんなに荒唐無稽な無罪主張であっても、被告人が「やってくれ」と言われたら、弁護人はこれに従うのである。
そのあたりにも、弁護人の立場への理解がされない原因かと思う。

で、現実は刑事事件などはカネにならないので、ほとんどの弁護士が手掛けないのである。
苦労して司法試験を通って、なんでわざわざカネにもならない貧乏人の弁護などをするのか?するわけがない(苦笑)
ですから、実は世間から「なんであんなやつの弁護をするのか」と言われている弁護士自体が、実は稀有な存在なのだ。
そういうわけなので、私は弁護士のことを悪く言うのはやめるべきだと思っているのですがねえ。