Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ワン・モア・ヌーク

「ワン・モア・ヌーク」藤井太洋

 

題名の「ヌーク」は「ニュークリア」つまり核のことである。超訳すると「もう一発、核を」となる。それでは出版が危ないので、カタカナになったのかな。日本SF大賞受賞作。

 

物語の冒頭では、イラクの核査察でやってきたCIA部員に対して、イスラム国の核物理学者のイブラヒムがテロを仕掛ける場面が描かれる。CIA部員の2名は死亡と思われたが、実は大怪我をしながら生き残った。

このイブラヒムが、こっそりと濃縮した70%ウランを持って日本に潜入。モデルにして服飾ブランドのベンチャー経営者の但馬と組んで、核テロを仕掛ける。

但馬は、福島の原発事故で友人を亡くしており、その原因が風評被害であった。きちんとした科学的な説明を繰り返す努力を放棄した政府に対する怒りで、但馬は東京で元的な核爆発を起こすことを目論む。20%濃縮ウランで、ごく小さな核爆発をオリンピック準備中の国立競技場で起こすつもりだった。20%濃縮ウランであれば、爆発の放射線はほとんど国立競技場の壁に阻まれ、その後の除染をきちんとやれば、その後は普通に生活可能である。その作業を通して、政府にまともな原子力に関する説明をさせようというのが但馬の狙いだった。

しかし、イブラヒムが持ち込んだのは、実は70%濃縮ウランなので、爆発の規模は桁違いになる。長崎型の30倍の規模の爆発で環八内は壊滅し、地表爆発であれば、その後の除染はほぼ不可能で、永遠に立ち入り禁止区域ができる。イブラヒムは、但馬の計画に協力するふりをして、実は但馬をだまし、大規模な核テロを実行しようとする。

これを阻止しようとする警視庁外事課、核査察を生き延びたCIA、そして真相に気がついた但馬自身も動く。イブラヒムは外国人労働者に偽装して入国したイスラム国メンバーを武装させて、妨害を排除しようとする。

これら四者が東京国立競技場で核テロまでの時間が限られる中で対峙する。。。

 

日本SF大賞受賞作だけあって、緊張感がすごい。日本の作家に珍しく、四者の重層的な物語が描かれており、海外作品のような趣がある。

評価は☆☆。

 

あの3.11から、すでに12年が経過した。当時の小学生は、すでに成人に達した。

未曾有の大災害の記憶も、だんだんと薄れかけているのは否めないのであろうと思う。

しかしながら、あの津波に加えて、原発事故の影響はあまりに大きかった。繰り返しても仕方のない話であるが「もしも、津波だけで原発事故がなかったら」また、被害の規模も大きく異なる結果になったであろうと思う。

その原発事故の原因は、非常用ディーゼル発電機が水没したことだとされている。

その対策をしたから、今度は大丈夫だという言説もある。

私は思う。そんな簡単な話なら、なぜ、津波の前にそれがわからなかったのか?

そう、実際は「考えもしなかった」のだった。

私は、それが、事故の原因の本質ではないかと考えている。