Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

オービタル・クラウド

「オービタル・クラウド藤井太洋

 

小説の冒頭で、テヘランの郊外。科学者のジャムシェドが気球を上げて、その動きを手計算で算出する場面から始まる。かの国はインターネットも、科学者が気軽に使えるコンピュータもない。日本の渋谷で「メテオニュース」というアマチュア天文家向けのウェブマガジンを発行している木村は、宇宙ゴミデブリ)の宇宙船がおかしな動きをしていることを発見する。普通は、デブリは徐々に高度を下げて最後は燃え尽きてしまうのだが、この宇宙船の残骸は逆に高度をあげていたのだ。

続いてインド洋のセーシェルの小島。この島を買い取って、付き人一人と住んでいる資産家のオジーはアマチュアの天文愛好家だが、カネに物を言わせて軍用レーダーを買って宇宙観測をしている。その観測レーダーにおかしな動きをする雲のようなものを見つける。それを「神の杖」軌道兵器だという与太話をくっつけて、ネット上に流す。これこそ、木村が発見したデブリを押し上げている力だった。

「神の杖」に関して、北朝鮮がおかしな発表をしたことが引き金になり、米国CIAは軌道兵器の可能性に神経を尖らせて木村たちとコンタクトする。

木村は、同時にテヘランからジャムシェドの通信を受信するが、それは途中で切れてしまう。しかし、雲の正体がスペーステザー(テザー推進機)であることを看破する。

テザーを操縦しているのは、かつて日本のJAXAに勤務し、自由な研究ができないことから飛び出した白石だった。かれは軌道テロを計画し、宇宙ホテルに滞在中の親子を狙う。

米国CIAと木村たちは合流し、この宇宙テロを阻止しようとプロジェクトチームを結成することになるのだった。。。

 

壮大なスケールで描かれる宇宙テロの物語だが、特筆すべきは、この物語の舞台は2016年に設定されており、小説発表時点で実現不可能な技術は何も登場していないということなのである。この小説に発表されているテザー推進機についても、すでに発表済の技術なのである。

インターネット時代になり、TECスキルがある程度高い人物が、必要なリソースにアクセスできたとしたら、こんなテロまで起こせるし、それと戦う人物も同じく市井の技術者であっておかしくない、、、そんな現実の側面を浮かび上がらせている。

それにしても、すごい構想である。

評価は☆☆。

星雲賞を受賞したそうだが、それは当然だろう。アマゾンkindle自費出版で一位をとって話題になり、プロデビューにこぎつけた異色の作家だが、実力にまちがいない。

 

このテザー推進だが、つまりは電極に働くローレンツ力を利用した装置である。

実は、私が中学生の頃、夏休みの自由工作で友人と二人で「イオンクラフト」を作ったことがある。アルミホイルとバルサ材でつくった軽量な機体に、高圧をかける必要があった。そのときは、古いテレビのブラウン管から電圧をとった。

ブーンと低い音がして機体が浮上したとき、友人と手を取り合って喜んだことを思い出す。

さっそく学校へ持ち込んで、理科教師の前で実験したが、危険なテレビの高圧を使わせて貰えず、電池をつないでインバータで昇圧したが電圧不足で飛ばなかった。くやしい思いをした。イオンクラフトは、今思えば、テザー推進だったのだ。

しかし、操縦することはできず、ただ浮上するだけだった。

懐かしい思い出である。