自転車を漕いでいて、ぱちんと顔に当たるものがある。
初夏と、今の季節。つまり、羽虫の季節なのである。ようやく涼しくなってきて、快適な自転車ライフだと思っていると、思わぬところでとんでもない目に遭うのだ。
つまり。
一生懸命、ペダルを回してハアハアしていると、口の中に羽虫が飛び込んでしまうのである。思わぬタンパク質補給だ、と喜べるのは野生の本能が強いオスに限る。
私のようなひ弱な男は、なんともいえない味に顔をしかめてペッと食ってしまった虫を吐き出すことになるのだ。で、それでも時すでに遅しで、そのまま胃の腑に収まってしまう場合も多々ある。
同じ自転車趣味の知人にこの話をしたところ、「あるある」だという話になった。
「基本的に食べちゃいますね」
と平然とした顔をしているのは恐れ入った。そうか、こいつはオレよりも遥かに野生なのだ、オレよりもたくましいのだ。そう思って畏敬の念を抱いたものである。ちなみに、そいつは私よりも遥かに腕が立つので、当然、じゃんじゃん稼いでいるのだ。男として負けたと思った瞬間であったなあ。
しかし、それでも強いオスになれない私は、今日も、ハアハアしないように口を閉じて、のんびりとペダルを回す。
それでも風が心地よい季節であることには違いないのだから。