Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

湿地

「湿地」アーナルデュル・インドリダソン。

 

見慣れない作者名であるが、北欧アイスランドの人である。英語圏ではない外国人の名前というのは新鮮さがある。エーレンデュル警部シリーズとして好評を博しているとのこと。

 

物語の冒頭で、老人が頭をガラス製の灰皿で殴って殺されているのが発見される。凶器がそこにあった物なので、衝動的な殺人だと思われた。ただ1点、おかしな書き置きが残されていた。「俺はおまえだ」

エーレンデュル警部は被害者の身元調査を行うが、この人物が若い時に不起訴になったが強姦罪の前歴があることがわかった。参考までに、その被害女性を調べると、彼女はすでに死んでいた。自殺だった。彼女は、強姦の被害を警察官に訴えたのだが、その警察官は札付きの怠惰なやつで、彼女の訴えをただの男女関係のもつれとして処理し、まともに捜査をしなかった。その後、被害女性は娘を生んだのだが、それはおそらく強姦被害の結果だと思われた。しかし、彼女は娘を愛情を持って育てた。ところが、娘はわずか4歳にして、難病のために死亡してしまう。絶望した彼女は、数年して自らも命を絶ったのだった。

さらに被害者の当時の婦女暴行の犯罪を調べると、仲間がいたことがわかった。ところが、その仲間も行方不明になっていた。エーレンデュル警部は、当時のアリバイを調べて、老人が殺害された現場のアパートが怪しいと結論する。老人の部屋は半地下だった。そして、アイスランドでは土壌がもともと湿地であることが多く、地震などで排水管がはずれて、そのまま知らずに排水を続けて地下に空洞をつくることが珍しくないのである。床下を昔工事した水道屋が現れて、老人が最後まで仕事をさせずに自分で床をふさぐといったという。床に穴を開けて調査したところ、その空洞に共犯者の長い年月が経過した死体が現れる。

さらに、老人の犯罪被害者が別にもう一人いたことがわかる。その女性も子供を産んでいた。その男の子は無事に成長したが、その娘はやはり7歳で同じ病気で死んでいる。

その病気は遺伝性で、老人の細胞を検査すると、原因となった遺伝子が見つかった。さらに、その遺伝子バンクをハッキングした男が見つかったが、その男こそ、老人の犯罪被害女性が生んだ息子だった。。。

 

さすが北欧という感じで、物語全体に流れるトーンがずっと薄暗い感じがする。ストーリーは無駄なく流れていき、やがて結論に至る。なんとなく、寂しさが残る。

評価は☆☆。

トリックがどうこう、というタイプの作品ではないけど、全体のトーンが独特で、このトーンに惹かれた人はくせになると思う。

なんとなく、シベリウスの音楽に似ている。ちなみに、シベリウスはたくさん交響曲を書いたが、2番以外はイマイチだと思う。というか、2番を越えようとしてずっと苦闘したあとというべきか。

 

なんでもアイスランドは人口30万人しかいないそうで、そうなるとミステリも盛んでない。理由は単純で、人口30万で(うちレイキャビクに20万人が住んでいる)連続殺人が起こる確率など0に等しいからで、ミステリ的に嘘くさすぎて成り立たないのだという。

しかし、最近では、ようやくこの作者のように「北欧らしい犯罪」を描く作家が現れてきたのだそうである。

白夜といわれる長い夜に、ゆっくりミステリを読むのは最高に楽しいことだろうと思うのだが、読むから書けるかというと、そうでもないのだなあ。世の中、だいたいそんなものだなあ、と納得した次第である。