Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

当確師

「当確師」真山仁

 

当確師、というのは本書の主人公、聖の自称で、世間では「選挙コンサルタント」という。その聖は、旧知の国会議員からの依頼で、政令指定都市の高天市の市長選挙で、三選を狙う現職の鏑木を倒してほしい、という依頼を受ける。

事前の支持率調査では、現職が圧倒的優勢で、対立候補はわずか2%しか支持がない。そこで聖は、まず候補者の選定からやり直す。すると、3人の有力候補が見つかる。一人は、鏑木の義弟。今は母親の遺産で高等遊民である。もう一人は、鏑木の妻。高等遊民の姉である。実は、この2人は高天市の有力地元財閥の子弟なのだ。そして、最後の一人は、鏑木の妻の友人で、亡くなった元副総理の娘である。耳が不自由で、市民活動家となっている。

聖は義弟から当たるが断られ、つぎに市民活動家の女を口説く。すると、意外にも女はこれを受諾するのだった。理由はなんと、鏑木の妻から出馬を促されたというのである。自分の夫に対抗馬を立てようとするとはどういうことなのか、謎は残るが、とりあえず選挙資金の心配はなくなった。

とはいえ、相手は盤石の支持基盤を持つ現職である。聖は、その支持基盤を切り崩しにかかる。謀略と裏切り、そして打算。

選挙は、告示日には終わっているのである。。。

 

いわゆる選挙コンサルタントの仕事をエンタメ風に描いた作品。ずいぶんとあらっぽいな、と苦笑するが、まあ、これはそういう作品なのだろう。

評価は☆。

 

私の仕事の一端は、こういう選挙コンサルタントの仕事に関係している。実際に、選挙コンサルタントも当然知っている。なんというか、海千山千の世界で、ハッタリ上等(笑)の連中である。

しかし、実際の選挙コンサルタントというのは、本書にあるような裏工作を行うことは、ほぼないと思う。実は、日本の公職選挙法というのは、一般の世間の人が考える以上の魔窟であって、素人がうっかり活動をすると必ず選挙違反にひっかかる。

近くは、東京の江東区長選で当選した区長がSNSで選挙活動をしていたというので選挙違反により当選無効となった。こんなケースなど、普通の人には理解できないだろうと思う。インターネットで選挙活動を行うことはできるようになったのだけど、その線引きは理解されないと思う。まあ、その区長選でカネをばらまいた柿沢元議員は完全にアウトですが(苦笑)

で、これらの候補者に「選挙違反にならないように」活動をアドバイスするのが選挙コンサルタントの大きな仕事なのである。あと、情勢調査と対立陣営の偵察あたり。支持基盤周りなどは、これは候補者の選対が行う。

というわけで、本書はあくまでエンタメなのである。

 

ついでに言えば。

選挙の集計でムサシという自動集計装置が使われるのであるが、こいつで票を不正に操作している、という陰謀論がSNSで流れて、信じているバカが結構いる(苦笑)

開票作業所では、ムサシで自動仕分けされた票の山を、立ち合いの選管が改めて全部調べる。それだけでなくて、各党から代表が来て、開票作業を監視している。お互いが不正をしないように、見張りあっているわけだ。

投票所は朝一番にいけば、からの投票箱を確認することができるし、その後の監視も投票立会人になれば行うことができる。これは結構面倒なので応募者は少ないから(苦笑)何度か応募すれば、だいたい経験可能だと思う。

で、何が言いたいかというと。

くだらねえSNSで流れてくる、見知らぬやつの話を信用している暇があったら、自分で動いて確かめればいいじゃんか、ということなのだ。

でも、陰謀論にはまる人たちほど、そういうことはしないのである。しないで、こんな選挙はおかしいと、こたつに入ってスマホをみながら言うのだ。ほんとに疑問がある人は、選挙監視員になって、さむい体育館で震えながら投票箱の確認をしているものなのである。