Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

世界はなぜ地獄になるのか

「世界はなぜ地獄になるのか」橘玲

 

シニカルな視線が面白いのは、この人の本だ。「それを言っちゃあ」「見も蓋もない」話を、なんで見も蓋も無くなるかを丁寧に解説してくれる(笑)だから、余計に見も蓋もないのだ。

 

昨今、あちこちで繰り返される「炎上事件」はなぜ起こるのか?どうして陰謀論は流行するのか?フェミニストとLGBT論者はなぜ対立するのか?なぜトランプは支持されるのか?そんな話を、根拠を示しながら丁寧に説明している。

 

著者が指摘するのは「自分らしく生きる」という宗教的な観念が一般的に広まったのは60年代からだった。戦争が終わり、高度経済成長は日本だけでなくて世界でも起きており、若者がビートルズに夢中になったのだ。それまでは「生き延びる」のが最大のテーマだった。しかし、60年代になり、生きるのは何とかなるまでに世の中が豊かになったことで、人々が次に求めたのが「自分らしく生きる」ことだったのだ。これが無条件に善であると、現代の人々に至るまで、皆が信じているのは面白い。

しかし、みんなが「自分らしく」生き始めると、それぞれの個性があちこちで衝突を始める。国家の指導者に一律に従っている場合は、そういうことは起きないわけだが。

つまり、我々は「ユートピア」を達成すれば、必然的に「自分らしく生きたいけど、そうできない」ディストピアも一緒に出現することになるのだ。

たとえば。世の中が豊かになって、個人がそれぞれ能力を発揮できる社会は豊かになるけど、逆に言えば能力差がはっきり表れる社会である。必然的に、格差が拡大するのだ。しかし、人は自分が格下だと認めるのは苦痛である。これは、石器時代からの脳の仕組みなので、仕方がない。自分が能力を発揮してマウントをとれば快楽を得られるわけだが、そうできないのはストレスだ。ところが、自分が「正義」であって、明らかに不正な相手を「たたく」と、自分が優秀さを示した時と同じ快楽が得られる。脳の仕組がそうなっている。能力を発揮することは難しくても、ダレカ「失敗をした人間」をたたくのは簡単にできる。そうすることで、より手軽に気持ちよくなれるのだ。。。

 

いつものことながら、明確なロジックは「見も蓋もない」(苦笑)。

評価は☆☆。

ま、そうだよな、という話である。

 

では、こんな「ユートピアであり、かつ、ディストピア」の世の中を生き抜くためにはどうするか。著者は「注意深く、距離をとれ」という。自分が炎上しないように、静観するのである。

これは、正しいと思う。

 

同じような趣旨の話を、岡田斗司夫YouTube上で「ホワイト化する社会」と呼んでいる。世の中がどんどん潔癖になり、漂白されていく。昔は少々の不正は目をつぶっていられたが、現代はそうはいかない。その流れは、止めようがないんだ、と。

 

そうして、どんどんホワイト化して、皆が注意深く、炎上しない世界になったら。それは、素晴らしい世界なのかな?私にはまだわからないけど、たぶん、その行く末を私が見届けることはもうないだろうから。

それまでは、静かに暮らそうと思うわけですねえ。