Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

不道徳教育

「不道徳教育」ウォルター・ブロック。

リバタリアニズム(自由原理主義)」の入門書。
簡単に言えば、リバタリアニズムとは「自由こそ、至上の価値である。」という考え方で、これに「注釈」「保留」がつかない考え方である。
つまり「しかし、平等も大事である」といえば、古典自由主義。「しかし、伝統も大事である」とやれば保守主義、となるのだと。簡単明瞭な解説である。コミュニズムは、そもそも相手にされていない(笑)。
そして、特徴的なことであるが、この「自由を束縛するもの」の代表が「国家」である、という。つまり、リバタリアニズムの行き着くところは、実はアナキズムである。

この原理を説明するために、著者は挑発的なテーマを選ぶ。例をあげると「シャブ中」である。「人間は、誰でも一発キメる権利がある」と著者は言う。そして、多くのシャブ中が犯罪を犯すのは、早い話がシャブが禁止されている故に高額で、購入する資金に事欠くためだ、とする。シャブを解禁すれば、値段は下がり(暴落するだろう。原価はアホみたいに安いわけだから)犯罪は減るというのである。
しかし、真っ昼間からシャブ中だらけでは、清朝のアヘン漬け時代と変わらんではないか?著者はこの疑問に対して「国のGDPが上がるということが、人間の幸福とは全く関係ないではないか」と反論する。そんなもんは国の勝手だ、と。

とはいえ、犯罪の処罰のため、警察力は必要らしい。で、困ったのか、地域社会が警察を雇うというような案を示す。軍隊は?「アメリカにアウトソーシング」だと(これは翻訳者だが)言う。これには、腹を抱えて笑ってしまった。

むかし、生物の授業で、生物の起源について、オパーリンの実験について学んだ。原始空気と海洋の環境をつくって、ここに落雷させるとコアセルベート(アミノ酸)ができる。そこで教師は言った。
「その他にも生物起源説はある。たとえば、宇宙飛来説である。原始の生命が宇宙からやってきた、と。しかし、しからば、その飛来した生命はいかにして発生したか?という疑問が残るので、学問的解決とはなり得ないのである」

同じ事である。アメリカに軍隊をアウトソーシングするというが、アメリカがリバタリアニズムに染まってしまったら、アメリカには依頼できまい。
世界中がリバタリアニズムになれば、軍隊はいらないし、国家も要らない。結構なことではあるが、その過程を示さない「ずるさ」がある。
つまり、言うまでもないが、もしも「世界中リバタリアニズム」にしようとしたならば、その移行期間において、人類に「自由原理主義」を「強制」しなくてはならないのである。悲劇というより喜劇であろう。

とはいえ、なかなか刺激的な本であることに間違いない。論理としては、なかなか手強いのである。
読んで損はないかな。
評価は☆☆。
ただし。
このまま信じてしまいそうな人は、やめておいた方が良いかもしれない。かなり「毒」が効いた書である。