Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

6ステイン

「6ステイン」福井晴敏

題名通り、6つの連作短編集である。

舞台は、現代の日本。「市ケ谷」という通名で呼ばれるのは、いうまでもなく自衛隊である。登場人物たちは、その「市ケ谷」の特殊工作隊員たちであって、公式には存在しなことになっている。
彼らは、ギリギリの状況の中で、必死に「生きがい」を求めたり「自由」を求めたり(取引によって、懲役を逃れる代わりに工作に従事しているから『年季』明けには晴れて自由の身になる)している。
そして、しばしば「国益」のために、弊履のごとく捨てられる。「国家」ってなんだ、と思いつつ、それでも裏切ることはできない。

中では「畳算」という作品が心に残った。山奥の温泉宿に老婆がいる。彼女は、若いうちは芸者だったという。もと「市ケ谷」の工作員と一緒に駆け落ちした。
ある日、彼の後輩にあたる工作員の主人公がこの温泉宿をたずねる。それは、工作員の男が「保険」代わりに持逃げしたスーツケース型核爆弾を回収するためであった。
老婆は、工作員の男の行方を尋ねる。「死んだ」と伝えると、老婆はそれならスーツケースのありかを教える、という。その夜、老婆の告白を聞く。工作員の男は、ある日、彼女の前から姿を消した。男の帰りを待つ老婆は、一人で「畳算」をする。かんざしを投げて、そのかんざしまでの畳の目を数える。その目の数が、恋しい男が帰ってくる日なのだ。芸者の占いである。
そして、スーツケースの回収に行く主人公と老婆。ところが、土壇場で「市ケ谷」は主人公たちを「売った」。工作員の男が老婆の前から姿を消した理由も明らかになる。彼は、自分の女に累が及ぶことを恐れて、自ら姿を消したのだった。真相を知った老婆がとった行動は。。。

せつせつと胸を打つ。珠玉の作品集である。
☆☆。

福井晴敏といえば「亡国のイージス」などで有名な、現代軍事もの作家という認識がある。たしかに、それはそうなのだが、しかし、彼のテーマは違うところにあるようだ。イデオロギーではんくて、あくまで個人の哀歓を描く。ミリタリー描写は、その背景にすぎない。
先入観なしで、一読を薦めたい。名作だと思う。