Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

大西洋漂流76日間

「大西洋漂流76日間」スティーブン・キャラハン。

まぎれもなく真実、著者の航海日記(非常用ゴムボートの上で書いたメモ帳を航海日記と呼べるとするなら)をもとに書かれた書である。

著者は、大西洋横断ヨットレースにエントリー。ヨットは一人乗り、単独行である。途中までは順調な航海を続けていた。それが、ある夜、何者かに衝突(クジラらしい)。沈むヨットから非常用ゴムボートで脱出する。しかし、飲料水も食料も乏しい。絶望的な状況の中、不屈の精神で生き延びるための努力を重ねる。

飲料水は、非常用の蒸留キット(もとは軍用)でつくる。天気が悪いときは、雨水を受ける。それでも、真水は足りない。厳しい取水制限を自らに課す。

食料は、手持ちの水中銃一丁が便りである。釣りセットももっていたが、強大なシイラにはまったく歯が立たなかった。
76日間の間には、サメに襲われたりもする。だから、何度か水中銃の穂先を失う。そのつど、ナイフやフォークを使って穂先を作る。

評価は☆☆。実に面白く、興味深い本である。

76日間の航海の中で、ついに著者は死にかける。「もうだめだ」とあきらめかける。そのとき、なんと、一緒にボートの周りを泳いでいた魚たちが、彼を励ますのだ。すでにシイラを刺してとる力もない彼に、シイラたちは自ら進んでその体を与えるのである。
彼は「もう魚たちを殺したくない」と思う。その魚を食べ、彼は生き延びたのだ。
このくだりは、何度読んでも不思議である。文章の一行一行に、作り物でない迫力がみなぎっている。そして、どういうわけか泣けてくるのだ。

「もう疲れた」と思っている(私のような)人たちよ、どうか一読されたい。どうやら、人生はそんなに簡単にあきらめてはけないらしい。しみじみと、そう思わせる本である。