Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

「お金」崩壊

「お金」崩壊 青木秀和。

我が国の国債および地方債、政府補償の財投債をあわせた公的債務残高は、一説にはすでに1200兆円に達するとも言われている。「このままで、円は大丈夫だろうか?」という疑問はある意味当然だし、「なんで、そもそもかような事態になってしまったのでアルカ?」という疑問だって当然である。
で、みんながよってたかって、ああでもないこうでもないと意見を述べる。これを「群盲像を撫でる」という。今は、言葉狩りの世の中であるから、そういう譬えはまずいのかな(笑)

しかし、そこまでクリアに「原因」がわかっているなら、必然的に「対策」が出てこなければおかしい。よってたかって「よくわからん」のだから、こりゃ「わかりません」ということである。
「わかりません」の場合、出てきているのは「事実と観察のきれっぱし」ばかりである。その切れっ端を並べて「さあ、どうですか」とやると、たいてい「と本」ができあがる。たとえば、本書がそれだ(笑)

まず。
中央銀行の紙幣発行の裏付けは「国債だ」と断言してしまうのだ。最初は、もちろん紙幣価値を表現するための、ひとつのレトリックであろうと思った。しかし、著者は本気で「紙幣発行高が増えるのは、国債発行高が増えるのだからイコールである」と主張してしまう。私は思わず目をこすった。そんなことを主張すれば、黒字の政府は紙幣を発行できないことになる道理であろうが(苦笑)シンガポール政府が聞いたら、腰を抜かす新理論登場である(笑)というか、あのなぁ。。。(絶句)

アメリカ政府が、日本政府に米国債を買わせ、そのために日本の貿易黒字が流出している、これはアメリカの陰謀だ、などというのは「ユダヤ陰謀論と同レベル」のトンデモさんなのだが、やっぱり、、、である。いい機会だから、こりゃ、ちょっと計算しようよ。
昨年度の日本の貿易黒字は24兆円ちょっと。ドルベースでだいたい2400億ドルでしょう。
一方、平成20年6月末の外貨準備高は8592億ドル。2000年が3177億ドルだから、だいたい8年間で5415億ドル増加したとして、年間676億ドルとなる。外貨準備がすべて米国債に偏重して、これがすべて国富流出だとすると(むちゃくちゃな前提ですなー)貿易黒字と比較すると、28%ってとこですよ。日本にせっせと稼がせて、その2割8分という「なんとかスタメン」レベルの打率で米国に環流させるために、米国が日夜奸計を巡らしている、、、というのは「やや妄想に近いんじゃないの」って思ってしまうじゃないか。
しかも、である。この積み上がった米国債から、日本政府は金利をちゃんと配当してもらっているわけで。
だいたい、中央銀行の外貨準備と政府の赤字財政とは関係ないってば。貿易赤字でも黒字政府はできるし、その逆もあるし。そもそも、貿易黒字、政府黒字の国もちゃんとある。

「この10年間に、紙幣の発行残高は10倍になった!とんでもない経済だ」などとも書いてある。ええと、ですね。10年前に、すでに紙幣発行残高は実物取引の10倍くらいあったわけですよ。それらの紙幣=資金は、当然「再投資」にまわるわけです。そりゃ、国債を買おうが、先物市場に投資しようが、株を買おうが土地を買おうが、つまり「投資」。で。世界の実質経済成長率が5%、インフレ率が2%、合計7%で10年間できっちりう倍。複利計算をすりゃ当たり前、エクセルで一発じゃん。どこが不思議なのか。

評価は無星。

なんというか。

困ったことに、この本に書いてある断片的知識は、だいたい正しいのである。しかし、その背景の説明が、たちまちトンデモになってしまうのだ。
なんとなく、これは金融経済の素人さんが、ききかじりの知識をまとめて書き付けたお筆先じゃない、なんて思って。
読了後、著者の紹介を見たら。「市民派知識人」なんだかなー。。。最初にみときゃ良かった(泣)

やっぱり、まあ「群盲」でしょうなあ。