Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

闇の秘密口座

「闇の秘密口座」チャールズ・エッピング。

主人公のアレックスはうら若きアメリカ人女性で、スイス銀行プログラマとして働いている。ある日、古いプログラムの検査中に、ある口座を別の口座に1日だけすり替えて表示するコードを発見。
上司は「消しとけ」と軽く支持するが、終業後、同じ職場の上司と「その口座の名義人がまだ存在しているか」で賭けをし、番号案内に電話をかける。
すると、なんとその人物は実在することがわかった。それでおしまいになる話だったのだが、スイスの番号案内は、相手が見つかると自動でその相手につながってしまう。
その電話口から聞こえてきた声は「私の父親の死の真相を知っているのか?」だった。
会話を拒否しようとしたアレックスだが、もしも事情を話さないからスイス銀行に電話すると脅されて、相手の男と会うことになる。スイス銀行で、顧客の秘密を暴露したと見なされれば、理由のいかんを問わず首になる。
そこで会った男から、口座の持ち主が自殺したこと、それが彼の父親であること、自殺の原因が思い当たらないことを説明され、しぶしぶ真相究明に協力することになる。
そこでわかったきたことは、問題の口座は「信託口座」であり、彼の父親は名義を貸して運用を管理しているだけであること、預けたのはナチに殺されたかもしれないユダヤ人であったことが判明する。
その口座の元の持ち主のユダヤ人の相続人を探して、口座のカネを返還すれば、契約により莫大な手数料が入ることになっている。
アレックスは、秘密口座の相続人を捜すため、欧州から南米、アメリカと世界を動き回る。。。

帯の惹句には「最新のIT技術を駆使して捜査」とあるが、そんなものは出てこない。グーグルで名前を検索するのが「最新のIT技術」のわけがないではないか。
とはいえ、確かに10年前には考えられなかった捜査法であるわけで、時代の背景に応じてはいると思う。

スイス銀行の秘密主義は有名だが、信託口座はその一例である。
もともと、スイスでは脱税は犯罪ではない。単に、民法上の損害賠償をすることができるだけであるから、見つかれば税金を納めるだけの話ということになっている。
さらに、現金の持ち込み持ち出しも自由であるから、外国人の金持ちが現金で脱税資金を持ち込むことがある。その時に「信託口座」にしてしまえば、名義人が誰であろうと、真実の口座を持ち主を銀行に告げる必要がない。
この法律はアメリカの抗議によって改正されたのだが、それでも「信託口座の資金が犯罪の資金であること」が証明されない限り、スイス銀行は口座について捜査する義務を負わないのである。
このスイス銀行の不思議な秘密主義が、本書のストーりーの大きなバックボーンになっている。


評価は、、、正直、イマイチなので、思い切って無☆。

主人公はあちらこちらに動き回るし、行く先々で事件も起こる。それは、それでいいのだが。
なんだか、無駄にバタバタと動き回っているような印象が残るのだ。つまり、作者の都合が前面に目立ちすぎ、ストーリー運びが単調なのである。
作者は、国際金融の経験が長い人で、そのような蘊蓄が披露されると「なるほど」とは思うのだが、なんとなくストーリーとして消化不足が目につくのである。

スイスにまつわる笑い話をひとつ。
或る金持ちが、不正な脱税で得た金をスイスに持ち込む。段ボール箱で、表には「精密機械」と書いていた。
この箱がスイス税関で見つかってしまう。「すいません」と謝る荷主の金持ち。
スイスの税関は怒り心頭でこう言った。
「困るんですよね。これ、関税法違反ですよ!」
「はは、なんとも申し訳ない」
「ちゃんと、現金なら現金と書いてくれないと」
「はあ?」

スイスでは、現金の持ち込みは罪ではない。ただ、中身が表示と違うのは問題である。
ただ単に「現金」と書いておけばよかったのだ。所変われば、、、なのである。