Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ドリームマシン

「ドリームマシン」クリストファー・プリースト

プリーストといえば「逆転世界」とか「奇術師」を読んだのだが、SF的アイディアと描写力がスバ抜けている、という感想をもっている。
そのプリーストの「ドリームマシン」が、復刻されたので早速入手。

ドリームマシンとは、そのものずばり夢をみるための機械である。発明者の名前をとってリドパス装置と呼ばれるこのマシンでは、「投射」と呼ばれる夢を複数の人間が催眠状態で見ることになる。
この装置は、夢をみる人間の潜在意識をつなぐことで、夢を共有させるのだ。
そして、39人の科学者や専門家が集められ、彼らは150年後の世界を投射する。その世界では、戦争やエネルギー危機は克服されている(そういう前提の夢をみることになっている)のだが、いかなる手段によってそういう世界を実現したのか?
その過程を、つまり参加者の潜在意識から導き出そうとするわけである。いわば、複数の人間の潜在意識が考え出した世界を研究して、現実の世界の参考にしよう、という試みである。
その世界は、どういうわけか社会主義国アラブ連邦に分かれているのだった(しかし、戦争はない)
ところで、この装置につながれた人間はずっと眠っているわけだから、髪も伸びるし爪も伸びるし、垢だらけになって床ずれまで起きる。
そこで、たぶたび本人を起こして、しばらく治療させなくてはいけない。その間に、眠っていた間の世界の報告書を書くのである。
ところが、参加者のひとり、ハークマンという男が目覚めなくなってしまう。
その謎は、実は参加者の一人、女性のジューリアと、彼の元恋人ポールとハークマンの三角関係に起因していた。
プロジェクトの責任者という地位を得たポールは、ジューリアを独占したい欲望に駆られ、他の参加者を150年後の夢の世界の中で、ドリームマシンに乗せるということをしてしまうのだ。
夢の世界の中で夢を見るマシンに乗った参加者に、奇妙なラストが訪れる。。。

評価は☆。
プリーストらしい、ぐいぐいと読むものをひきつける筆力はすばらしい。もちろん、逆転世界のような凄さとか、魔術師で見せた話のリアリティはないけど。
でも、70年代のSF作家だと考えると、かなり凄いのじゃないかな。
仮想世界のほうが、現実よりもだんだんと参加者にとって重要な存在になってきてしまうあたり、今の一部のネット中毒者の予言でもあるような。

人間の潜在意識というものを、昔の人は「太極」と呼んだ。易者の看板にある、渦を巻いた白黒の模様がそれである。
あれは陰陽を表しているのだが、単に陰が女性とか陽が男性などという、フェミニストが喜びそうな話だけではないのだ(もちろん、含まれるけど)
陽が極まれば陰となるのだが、人間が困った状況をさして「窮る」という。極限は歓迎されない、次がないからである。
だから、つまり「陰陽」という。ほら、「陰」が先でしょ?「陽陰」とは言いません。

現下の経済状況は、まさに窮状というほかないわけですが、意外と我々の潜在意識は、すでに解決策を知っているのかもしれませんよ。
だれぞ、この年の終わりにあたって、太極に問うてみてはいかがでしょうか