Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

本当の潜水艦の戦い方

「本当の潜水艦の戦い方」中村秀樹。

著者は、元海上自衛隊潜水艦長らしい。
潜水艦の特性、大東亜戦争における潜水艦戦のデータ分析を行い、その敗因を主に戦略立案の失敗であるとする。
さらに、最終章では、現在の自衛隊における潜水艦運用の問題点を指摘している。

まず、潜水艦の特性は「秘匿性」である。海中に潜む潜水艦を発見することは、なかなか容易なことではない。
ただし、弱点は攻撃時であって、その瞬間に潜水艦の存在は露見してしまう。そうすると、今度は潜水艦の立場は一気に悪化する。小さな水雷艇にすら勝てない場合も多い。
よって、潜水艦の獲物は単独行動しており、対潜勢力を伴っていない商船ということになる。
なにしろ、海軍力には限りがあるのだから、すべての商船に護衛艦をつけるわけにはいかないからである。
相手が商船であれば、攻撃してこちらが露見しても安全である。

言うまでもないが、日本は大東亜戦争時に、海上輸送力を米潜に壊滅させられ、国民経済はほぼ崩壊の状態になった。
それ故、戦後の海上自衛隊は、対潜線を第一にする。いわゆるシーレーン防衛などが、この事情を表している。

しかし、著者は、この方針に対して異義を唱える。
そもそも、対潜戦が可能であろうか?という問いかけである。
戦後の潜水艦は長足の進歩を遂げており、原潜に至っては浮上航行する必要すらなく、しかも海上艦艇よりも機動力を備えている。駆逐艦で追っても追いつけない潜水艦を相手に、対潜戦をやらなくてはならない。
だからこそ対潜ヘリなどを搭載することになるのだが、その対潜兵器も、深海に潜行されたら信頼性は薄い。ヘタをすると、潜水艦の対空ミサイルで撃墜される危険すらある。
なにより、自由にどこでも出没する潜水艦に対して、全船団に護衛をつけるわけにはいかないし、一部の商船が撃沈されたら輸送コストは跳ね上がるだろう。

さらに、現在の海上自衛隊の構想では、たとえば北海道に対する侵攻があった場合に、南方海上シーレーンを守りつつ、米軍の支援を待つのが基本戦略なのだという。
凄惨な地上戦が行われている最中、のんびり海上で米軍を待つわけで、こんなものが海上戦力と呼べるだろうか。
そもそも、今の日本で昔のような長期包囲線は考えられず、短期侵攻のほうがあり得る事態なのに、そもそも海上を侵攻してくる敵勢力を挫く意思がないのだから、これは軍隊どころか自衛戦力そのものに値しないのではないか、と著者は指摘する。

評価は☆。なかなか、読み応えがあった。

政権交代があったばかりだが、ご存じの通り、連立与党には「平和主義」の政党が入っている。
外交面での方針が今ひとつ見えないというか、ただ「対等な日米関係」という空疎な呪文が唱えられているだけのように見える。
では、対等な日米関係があるとして、本書の指摘するような事態に、いったいどう対処するのであろうか。
「そのような事態を招かないのが外交」という主張は、外交における軍事プレゼンスの意味を理解していないとしか思えない。
つまり、軍事プレゼンスとは「そのような事態を招かないための外交努力」を引き出すためにあるものだから、である。
軍事力とは、行使するものではなくて、そこに「存在する」というだけで、これを外交に利用するものである。

別に国民がすべて軍事オタクになる必要はないので、皆が読むべき本だとは思わない。けれども、多少関心のある向きには、本書の中にみられる迷いや矛盾も含めて、一読してよいと思うのである。