Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

日本経済を学ぶ

「日本経済を学ぶ」岩田規久男

私は経済学の素養がないので、経済学の主張を理解するのに骨が折れる。
とはいっても、40も半ばをすぎたオヤジに、一から経済学を理解しろというのはムリな話である。
そういうわけで、こういう新書で、平易に解説してある本は貴重なのだな。

著者は、いわゆる巷間でいう「戦後の日本経済の復興は、優秀な官僚がリードした傾斜生産方式や行政指導などの政策によるもの」という一般論を鮮やかに論破してみせる。
事実は逆で、保護だの規制だのが不十分だったので、民間ががんばらざるを得なかったのである。
さらに、戦後の日本は先進国ではなくて、途上国のリーダー程度の位置だったから、キャッチアップ効果もあった。
もちろん、ベビーブームによる人口ボーナスもあったし、地方から上京して都会で働く、労働力の移動効果もあった。生産性が高い都市部に人口が増えるわけだから、生産性を高めるのに寄与する。
そして、日本の高度経済成長を止めたのは、田中角栄であった。
日本列島改造論による「地方都市の再生」は、結果として生産性の劣る地域に都市から集めたカネを再投資することになるのだから、生産性が落ちるのは当然である。
しかも、そうして造られた多くのインフラは、まったく農作物を運ばない農道とか、不要なダムとか、シカが走る高速道路だったのだから、長期低落も仕方がない。
さらに、日銀の政策も、物価安定を第一にするべく、少しでも物価上昇が見えるとただちに金融引き締めに動いてしまった。
失われた10年は、これらの誤った政策によるものであると総括する。
小泉改革に関しては、規制緩和は供給サイドへの政策として効果があるものの、需要サイドへの政策を欠いたままではかえってマイナスであると説く。
ゼロ金利政策量的緩和に関しては好意的だが、ゼロ金利は明らかに解除が早すぎたし、また需要サイドへの政策を欠いているので、官需が民需へうまくつながらないのが問題だとする。
最後に、長期不況への対策として、2~3%程度の日銀による買いオペを行うことでのインフレターゲット政策を提言する。

評価は☆☆。
読みやすく、たいへん理解しやすかった。これはありがたい本である。
マクロ経済とミクロ経済の「合成の誤謬」に関しても説明してある。これ、ゲーム理論そのものですね。

最後のインフレターゲット政策に関しては、物理学の量子力学を思い出した。
結果として、2~3%程度のインフレになっている状態が好ましい経済成長を実現することは、ほぼ異論がないだろう。
しかし、明らかに原因と結果が逆だとも思え、そもそも2~3%程度のインフレにならない経済状態が問題なのだと思えるが、はてさて、金融政策でもって2~3%程度のインフレにしたら、経済は安定成長するものかどうか。
これが、量子力学の「どうしてそうなるかわからないが、少なくとも観測結果とはよく整合するから、正しい式である」という考え方と似ているな、と思ったのである。
まあ、結果さえよければいいのだろうが、なんとなく釈然としない思いは残る。
先端の学問というのは、そういうものなんでしょうなあ。

しかし、日本みたく、国債発行しまくりで、円高で低金利というのも不思議なことだ。
本来ならば大インフレになり、通貨信任下落でもおかしくないのに。
つまりは、インフレターゲットの余地があるということなのか?それとも、嵐の前の静けさで、実はダムは崩壊寸前なのか?
残念ながら、私には判断する力はありません。