Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

リンカーン弁護士

リンカーン弁護士マイクル・コナリー

主人公は刑事弁護士ハラー。ご存じのとおり、アメリカは訴訟社会だが、訴訟がおおいぶん弁護士も多い。競争社会である。
よく救急車の後に弁護士の車がくっついてくる、と言われるが、それは誇張でもないらしい。
本書の主人公は「リンカーン弁護士」つまり高級車リンカーンの後部座席を改造してオフィスにしている弁護士だという。
広大なロサンゼルス郡には40を超える裁判所が散在しているそうで、依頼人と裁判所を回って仕事をする小規模事務所(弁護士がひとり)の場合、これがもっとも効率的なのだそうである。
すなわち、タイトル名は、日本風に表現すれば「貧乏弁護士」ということなのだ。リンカーンは、せめてもの見栄であろう。

その刑事弁護士だが、依頼には単発のジョブとフランチャイズ契約の2種類がある。
単発のジョブは、相談料が10分間いくら、調査料が10分間いくら、法廷で1回いくら、の世界である。
冒頭に、ある事件の弁護で主人公が「重要な証人がいないので、裁判の日延べ」を判事に申し出る。判事がこれに納得する。
被告人は、ハラーに言う。準備時間を検察に与えるのは不利ではないのか?と。
ハラーは答える。重要な証人とは緑の証人、つまりドル札だと。まだカネをもらっていない、だから仕事はできないと拒否するわけである。
判事は弁護士あがりだから、この隠語を知っていて、延期を認めたわけだ。次回までにカネが用意できなければ国選だ(そして、それはアメリカでは、誰も依頼人がつかない弁護士=無能を意味する)という。
ハラーは、がめついのだ。
これには理由がある。まず、検事の妻と離婚し、子どももいて、慰謝料と養育費を払わなければならない。住宅ローンもたっぷり。
これが生活の現実なのである。

フランチャイズ契約では、その訴訟期間、他の事件はいっさいしない。つまり「丸抱え」だ。たっぷりカネを貰えるわけで、腕の良い弁護士が裕福な被告人と出会った時の契約である。
このフランチャイズ契約に、ハラーはありつく。被告人は裕福な女性社長の御曹司で、ある女性を殴打したとして殺人未遂の疑いがある。
ハラーは鴨に喜ぶが、喜びもつかのま、なんと、彼が女性殴打事件の犯人で、しかも他に殺人事件を犯していることを知らされる。
ところが、弁護士の守秘義務があるので、事件の弁護も放棄できないし、警察に通報もできない。
おまけに、ハラーは、被告人の殺人の濡れ衣まで着せられそうになるのである。
濡れ衣だと知っているのは真犯人である被告人で、ハラーは、不本意な事件弁護に全力を上げざるを得ないのである。。。

そして、あっと驚く結末が。。。

結論。コナリーにハズレはないのだ。
いつものボッシュシリーズと違ってはいるが、やはりコナリーである。
ボッシュシリーズにある「陰影」が乏しい、という批判はあろう。
しかし、私は、この作品はボッシュシリーズに劣らないし、むしろ上かもしれないと思う。
なぜならば。
我々の生活において、もっとも「苦さ」を伴っているのは、その仕事であり報酬である。つまり、生活の厳しさ、意に染まぬ仕事でもせざるを得ないつらさである。
我々の生活において、もっとも陰影があるのは、複雑な生い立ちよりも、むしろ妻子とのすれ違い(しばしば離婚を含む)である。
物語として、ボッシュシリーズよりも浅いと思うかもしれないが、しかし、この主人公ハラーの苦しみは、我々の苦しみである。
そういう苦しみを描くことにおいて、やはりコナリーは一流なのだ。

評価は☆☆☆。
損のない作品。だまされたと思って読んで欲しい。

こういう作品にあたるから、海外ミステリはやめられないのである。