Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

起業のファイナンス

「起業のファイナンス磯崎哲也
副題は「ベンチャーにとって一番大切なこと」。

日本は、ベンチャーに冷たい国だとよく言われる。
しかし、著者は言う。「そうではなく、イケてるビジネスが少ないだけ」なんだと。
日本のベンチャーは、この20年間、小粒なものしかない。
せいぜい楽天やら、CCCやら。
日本人が強調したがる「落日のアメリカ」は、この20年間に、アップルやマイクロソフトが軒昂なのに加えて、グーグル、amazon、デルといった企業を輩出している。
これらの企業は世界を動かす規模だ。落日はどっちかなどと議論する価値もない。
日本の楽天TSUTAYAが世界を動かすとは言えないわけで、この差は圧巻である。
日本企業で世界を相手に通用するのは、いまだに80年代に隆盛した製造業しかないのである。
これじゃあ「イケてる企業がない」と言われても仕方がないのかなあ、と思う。

では、大前提として「イケてるビジネス」を思いつき、実際に起業したとして、次の問題はファイナンスである。
つまり、企業は資金を必要とする。売上で資金を回すのがもっともよくて、それが出来るならそうするべきだ。
しかし、実際には、売上が上がると仕入れも大きくなり、その間がまかなえないとか、あるいは一定規模に達するまでは時間がかかるので、その間の維持資金とかが必要になる。
すると、ここでベンチャーキャピタルに出資を仰ぐ必要が出てくるわけである。

銀行は、基本的に「預金者の預金を預かって運用」している。つまり、危ない橋を渡るわけにはいかない。
だから、銀行向けの事業計画や資金繰り表は、堅く保守的でなければいけない。
しかし、ベンチャーキャピタルは違う。年利5%で回ります、いかがですかといったら鼻で笑われてしまう。
彼らは、もっと高成長を求めているのだ。

ベンチャーキャピタルを相手にする場合に、注意しなければならないのは出口(EXIT)である。
ベンチャーキャピタルは、基本的に安定株主になって配当をもらおうとは考えていない。基本的には売却する。
株式を売却するには、株式市場に上場するか、あるいはバイアウトで、どこか大手に売却するかである。
そのときの資本構成を考えておくのが「資本政策」ということになる。

評価は☆。
ベンチャー企業をつくろう、上場を目指そうと考えている人にとっては、基本を押さえるという意味で良書である。
しかし、今の市場環境で、そもそも上場なんかする意味はないでしょうね(苦笑)
それこそ、大問題なのであるけれども。

かつて、私も株式上場を経験したわけだが、やはり本書に指摘のあった通りで、資本政策を考えていなかったために資金調達に問題を起こし、ついに経営権を他社に渡す結末となった。
色々な見方が出来るのだけれども、本書を読んで「そもそも資本政策の失敗だったんだな」ということが明瞭に理解できた。
上場ではなくて、上場後の資金調達の選択肢がなくなるのだ。
ただ、多くのベンチャー企業は、とにかく上場前に資金調達をしたくて、不利だと思う条件でも飲んでしまっているのだろう。

そういう意味では、ベンチャーキャピタル自身も、上場後の利益確定を急いで(上場するのは一握りだから)早い段階で売り逃げしてしまう。
株が拡散し、不安定になった企業は、次の資金調達もままならず、市場で流通の少ないマイナー株に成りはてる。
イケてる企業が少ない理由には、VC側のスタンスの問題もあるとは思う。
VCの人間もサラリーマンだし、そこそこ実績を上げて昇進を狙うのもムリはない。
すべてオウンリスクで勝負可能なウォーレン・バフェットと同じ行動が取れないのは仕方がない。

私自身は、既に上場ということについては、燃えるような想いはない。一度やったことを、またやりたいとも思わない。
ただ、これから勝負したいと思う人はいるだろう。
そういう機会があれば、またお手伝いするのもいいかもしれないとは思っている。
そんな機会が巡ってくるかは、神のみぞ知るではあるなあ(苦笑)