Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

下流喰い

下流喰い」須田慎一郎。

消費者金融闇金のなまなましい実態のルポ。

ところで、本日、大手消費者金融3社が巨額の赤字予想を発表した。いわゆる「グレーゾーン金利」が廃止されることで不当利得返還請求がいくらに達するか、全く予想もできないほどだが、早い話が儲けすぎた訳である。

サラ金の仕組みは、その高金利によって、特に低所得者が「返済しても返済しても、なお借金が減らない
」状態を作り上げ、長く収益をあげることにある。だから「下流喰い」。つまり、サラ金の悲劇は、低所得者をターゲットにして収益をあげる、その構造そのものにある。

闇金は、正規の金融業者からカネを借りられなくなった人を狙う。サラ金といえども正規に認可を受けた業者である以上、法定金利までしかカネを貸せない。ある程度リスクが高い人物には、カネを貸せないのである。そこに、法律違反の金利でカネを貸すのが闇金だ。かれらは、もとより非合法の存在であるから、もう「何でもあり」の取り立てを行う。わずかのカネのために、人の命が失われる。おそるべき世界である。

いわゆるグレーゾーン金利が廃止されることで、確かにサラ金業者には一定の歯止めをかけることができる。しかし、闇金業者の一層の跳梁跋扈を招きかねない面があることは否めない。法律が厳しくなればなるほど、闇に埋もれる部分は増えるのだから。

金貸しは、洋の東西を問わず忌み嫌われた職業ではあるが、しかし、少なくとも存在していることは事実だし、今後も存在し続けるだろう。

一方では、ノーベル平和賞を受賞したグルミン銀行のように、地域のコミュニティに連帯責任を負わせて20%の高利でカネを貸し出し、それによって貧困地域の殖産に役立っている例もある。金貸し=悪、と単純に決めつけることはできない。

たかがカネというなかれ。されどカネ。カネがないのはクビがないよりつらい、と言う。人は、カネを失って自殺までする生き物である。なんでカネを軽視することができよう。

できれば、高校生に世界史の勉強を教えるよりも、中学生に借金の金利の怖さをきちんと教えるほうが先決ではないかと思う。カネのありがたみと怖ろしさは、なかなか経験しないと分からないものだろうけどね。

評価は☆。
ルポとしては面白いが、これが全てではない。

本書に、母子家庭の母親が「就学補助の児童が半数」の東京足立区に住んでいて、主婦売春をしているというのでインタビューがある。足立区に住んでいる人が怒った。「駅前を妻が歩いていると、売春しているんじゃないかというので、マスコミが取材でウロウロ動き回っているのによく出くわすようになった。そんな目で見られているので、不愉快だ。住民が全員そんなことをしているワケがない。偏見である。ヘンな本が売れたおかげで足立区住民としては迷惑だ」というのである。
むべなるかな。これも真実の声なのだと思うな。ルポルタージュというのは、本人が「書きたい」題材を寄せ集めて書いたものなので、一面の「事実」に基づいて書いているが、それがすべて世の実相ではないのである。あくまで「作者が言いたいことを書いた」のがルポなのである。小説と違うのは、取材事実に基づくことだけであって、取捨選択と多少の脚色はつきものだ。
そういうことをアタマにいれて読めばいいだろうと思う。鵜呑みではいけないが、お金の怖さを感じるには好適な材料、といったところだろうか。