Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

手作り弁当を食べてる場合ですよ

「手作り弁当を食べてる場合ですよ」日垣隆。副題は「格差社会を生き抜く処方箋」

おそらく、月間WILLなどでの連載を、新書で加筆修正したもの。
よって、エッセイ集である。
大論文の類ではない。そう思うと、この副題はいただけない。大論文を期待してしまうからね(笑)

エッセイ集だから、あまりくだくだしく内容を説明するのはふさわしくない(というか、古本屋で買ってよめば充分だと思う)ので、簡単に。
それでも「なるほどなあ」は散見される。

まず、よく問題になる「日本の貧困率OECD加盟国の中でも最悪」というやつ。
外国旅行に行った経験が乏しい人だって、日本が他国に比べて著しく貧困だと思う人間はいないだろ、という。
外国の貧困は洒落にならないレベルではないか。
ネットカフェ難民というが、安い料金でシャワーと雨露しのぐ寝場所を提供しているネットカフェ経営者は立派ではないか。

六本木ヒルズ回転ドアに6歳の子供が挟まれて死んだが、自動回転ドアの設計を責める前に、でかい自動ドアをくぐるときには子供の手を離すべきじゃない。
4歳の子供が転んで箸がのどに刺さり、救急対応した耳鼻科医が事故原因を正しく診察できず医療訴訟の対象となったが、その前に子供に箸をくわえたまま走らせないようにするべきではないか。

マイケル・ムーア監督の映画シッコでは米国の医療制度をくそみそにけなす一方で、キューバやイギリスの医療を持ち上げていたが、そんなにイギリスの医療が素晴らしいなら、どうして毎年300人を超える医師が英国から米国へ移住してしまうのか。
キューバの外国人向け病院は素晴らしいが、現地人向け病院では薬も消毒薬もろくにないではないか。

そもそも、格差のない社会は共産主義しかないが、その共産主義は党幹部が肥え太るだけ、よけいに格差がひどかったではないか等々。

まあ、およそ大メディアが書けないことを、しゃあしゃあと書いてしまうのがこの著者の魅力であろう。
副題に騙されて、おなじみの「格差社会はんたーい」というアジテーションを期待した人は、すっかりアテが外れてしまうから、書評の評価は低い。
この程度のものを面白がらなくてどうするんだ?!といいたい。
評価は☆。これで、いいのだ。

で、副題の意味であるが。
そもそも貴重な昼休みに、わざわざ混んでいる人気店に出かけて、金を使って昼飯を食って、十年一日の同僚との会話をするのはばかげている。
手作り弁当をもっていけば原価は200円もかからないだろうし、自分の机で15分もあれば食える。
あとの時間は自由であろう。寝ても良し、散歩してもよし。
すでに、高度経済成長の時代ではないのだ。自分で工夫して、自分の時間とお金を有意義に使うしかない。
他人なんか(政府なんて、その最たるもの)アテにしててもだめですよー、という意味である。

そんなことは、著者に言われなくても、ほとんどの人はわかっているはずである。
しかし、マスメディアは「悪いのは社会だ、政治だ」という。
そんな話を鵜呑みにして、馬鹿をみた人がいても、当のマスコミはまったく責任をとってくれない。
格差反対の朝日新聞本社の社員の平均給与は1000万円をはるかに超えるが、その新聞の配達をしている人の給与について、朝日新聞が責任をとるわけがないじゃないか。
えらそうに格差反対を訴えているニュースキャスターの収入のいくらかでも、派遣村に寄付したと思うかね(笑)

そういう言説に惑わされないための本として、存在価値は十分ある。
もっとも、ハナからそんな言説を信用していない私には、あまり価値がなかった。
これは、その価値がなかったことを確認して喜べばいいだけなのである。