Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

総力戦

「総力戦」サイモン・ピアソン。

本書は、前編と後篇に分かれている。
全編は、あくまで局地戦にすぎない武力衝突が、積み重なり、各国の思枠が交錯する中で、ついには中東における大戦が惹起するまでを俯瞰的に描く。
後篇は、2006年に起きたことになっている中東でのイスラエル対アラブ同盟の総力戦を、その戦闘に参加した兵士たちの手記という形でえがく。
本書は、いわゆる仮想戦記であるが、もともと著者は英国の軍戦略部門に属しており、その後、軍事専門家として独立した。
それだけに、現状認識は厳しく、日本のいわゆる仮想戦記(ほとんどがゲームのログみたいな馬鹿げた内容らしい)とは一線を画すものである。

前篇では、世界各国で生起する細かな軍事衝突が描かれる。
本書の指摘にあるように、かつて世界は東西に分かれて、単純であった。
民族紛争や宗教対立は、すべて東西という枠組みに飲み込まれていたのである。
ところが、ソ連崩壊によって、この枠組みは崩れた。
あとに残ったアメリカというスーパーパワー一国体制の下で、世界は平和になると思われたが、実際にはあちこちで細かな紛争がおこり、余計に難しい世界になってしまったのである。
日本については、クリル(千島列島)=北方領土をめぐって、ロシアと紛争が起こる、ということになっている。
この紛争は一触即発のところまでいくのだが、日露は紛争を回避。
かえって経済協力をふかめる、というオチになる。
これがロシアの東方安定につながり、逆に中東紛争への介入を後押しする結果になる。
ロシアとしては、火種を東西に抱えたままでは面白くないわけだ。
日本と安定することは、彼らにとっても望ましいはず、ということである。

そのほか、アフリカのアルジェリアとフランスの紛争なども起きる。
これは、EUからのアフリカへの影響を弱める要素になる。

ここで後篇。
イスラム同盟にサラディンという名前の卓越した指導者が出る。
本書曰く、アラブの問題点は、どこにも卓越した指導者がいないことである、と。
それをひっくり返す大物が現れるのである。
そして、エジプトとサウジを従えて、一気にイスラエル包囲網を敷く。
イスラエルは当然、これに防戦する。
装備に劣るアラブは、緒戦に敗退をする。
しかし、サラディンの狙いは、イスラエルに手を出させ、攻撃目標にわざと民間人を置いて被害を受けさせ、その様子を西側メディアに自由に取材させることだった。
当然、メディアはイスラエルを非難する。
このため、アメリカは直接支援ができなくなる。
それを見て、サラディンはさらにテロ攻撃を敢行、イスラエル側の空中輸送機を破壊する。
同時にロシアがイスラエルにつき、米空母を陽動し、アラブの決死隊の小型潜水艦が米空母を攻撃、撃沈してしまう。
これで大きく空軍力を失ったイスラエルに、スカッド攻撃を継続。
そして、ついにそのミサイルの中に高高度核を混ぜる。
高高度核爆発は、地上への被爆はないのだが、発生する電磁波で地上の電気設備をすべて破壊してしまう。
石器時代の通信網に落ちたイスラエルに対して、アラブ連合は生物兵器天然痘)を投下。
疫病でバタバタと人が倒れる事態になる。
米国は、報復核攻撃をあきらめ、イスラエルを見捨てる。
追い詰められたイスラエルは、ついに核ミサイルを連続して発射。
米国の制止も聞かない。
この時点で、ついに人類壊滅を防ぐため、米国はイスラエルの核ミサイルサイロを核攻撃。
イスラエルは滅亡する、というストーリーである。


迫真の描写がつづき、恐ろしい話である。
こんなことがあり得るか?と思うが、現実に、世界で紛争は今も起きているのである。
評価は☆。

昔の人は「治に居て乱を忘れず」といった。
目先の平和は、またどんなきっかけで崩れるか分からないものである。
世界には、いまだ、アタリマエに戦争がある。
その事実は、忘れないようにしないといけないものだなあ、と思いますねえ。