Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ビッグデータ・コネクト

ビッグデータ・コネクト」藤井太洋

昨年の暮れの大掃除をしながら読んだ本である。
非常に注目していた作家だし、本作の感想を一言でいえば、たいへん面白かった。

小説は、留置場に入れられていた容疑者、武岱(ブダイ)が、嫌疑不十分で不起訴となり釈放される場面から始まる。
容疑はコンピュータウィルスの作成と配布であった。
怪しいとにらんだ警察は、別件逮捕を繰り返して武岱を長期拘束した。
しかし、武岱は徹底的な否認と黙秘を貫きとおし、またIT企業への派遣社員だった彼にはウィルス作成スキルもないと判断されて、ついに検察は不起訴の判断を行ったのだ。
とはいえ、留置場に長期拘束された武岱の人生は崩壊してしまった。逮捕されれば、裁判を待たずして解雇になるし、いったん容疑者になれば次の雇用先を見つけるのも難しい。
借りていたアパートも携帯電話も、長期にわたる滞納でみんな解約されている。
そして、武岱はどこへともなく姿を消してしまった。
「こんな目にあわせた真犯人に復讐する」と言い残して。

その武岱から、2年後。サイバー犯罪課刑事の万田に連絡が入る。
某市の民間会社への行政サービス事業に、データ漏洩に関する重大な疑惑があるというのである。
その現場からは、主任技術者が誘拐されて問題になっていた。
開発現場に入った万田が見たものは、納期がすぎてもカットオフを迎えられずに、えんえんと作業を続ける多重下請けのエンジニア達であった。
主任技術者は、親から降りてくるほとんど無意味な仕様書をほぼ独力で掌握し、発注元から押しつけられた無能な下請けに、コードを書いて渡していた。
数億円にのぼる発注金額は、実際には数十分の一になって、下請け(耳孫)に丸投げされていたのである。
やがて、その主任技術者が殺されて、死体で発見された。
万田は、武岱とともに捜査に入る。武岱も容疑者であるが、その武岱を監視しながら捜査を進める目的であった。
そして、武岱は、このプロジェクトの下に隠れていた恐るべき真の目的と、それを操っている真犯人を捜し出す。。。


IT関係の技術に詳しくない人が読んだら、いったいどういう感想を持つのか、ちょっとわからない。
しかし、関係者であれば、大変面白く読める小説だろう。
技術関係の用語も適切であるし、多重下請けや、本書の中にある「外字を?で代用する」システムを、私も見たことがある。このシステムは、ラスト近くでプロジェクトのカラクリ暴露に大いに生きる伏線となるのである。

私がこの本を興味深く読んだのは、著者のデビューの経緯がいささか特異だからである。
本書の著者は、2012年に、処女作をアマゾンKINDLE市場で自費出版。(当然電子出版である)
その年のキンドル市場で「もっとも売れた文芸小説」になった。
そこで注目され、翌2013年に早川書房から、紙の出版物でデビューしたのである。
まさに現代でなければあり得ないようなデビューのやり方で、そういう経緯で世に出てきた作家の力量を見てみたかったのである。
その感想をいえば「とんでもない本物」というのに尽きる。
実に面白く、また確かな知識に裏打ちされた作品であった。
評価は☆☆である。


世の中は電子出版に向かっていくのかもしれない。
こんな力量をもった書き手が、自ら、発表の場を得て世の中にデビューしたことが素晴らしいと思う。
と同時に、既成の出版社の仕組みが、なかなかこういう書き手を発掘できていない現実もあるように思うのですなあ。

私も、最近は老眼がでてきてしまい、どうも電子出版物を読むのは疲れるのですが。
(私の場合は、仕事でモニタを見る生活が多く、目を酷使しているから余計にそう思うのかもしれない)
これからは、電子出版も注目して行かざるを得ないかもしれないなあ。