Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

sudden fiction

「sudden fiction」ロバート・シャパード、ジェームズ・トーマス編。

いろいろな作家の作品を集めた短編集である。
長さとしては、日本で言うショート・ショートなのだが、有名な星新一のショート・ショートとは違う。
これらの作品には、あのような見事なオチがないのである。
長編から、もっとも印象的な場面だけを切り取ったような作品が多い。
物語は、だいたい唐突に始まり、唐突に終わる。
それが悲しくて、読者は思わず立ち止まる、という感じである。
あえていえば、片岡義男の作品に近いものを感じる。

淡雪のように、ふっとなくなってしまう。
読んでいるときは、それはそれは楽しい。しかし、それは一瞬である。

こういう作品もあって良いのか、と思う。
評価は☆である。
続編が出たら、買って読みたい。


短い小説でオチを求めてしまうのは、思えば落語の影響かもしれない。
あの星新一が落語好きだった、というのも頷ける話である。
オチがなければ、落語じゃない。
その思想が、ついつい作品にも反映したものであろう。

星新一で思い出したが、私は星新一の長編が好きなのである。
気まぐれ指数」「夢魔の標的」「人民は弱し、官吏は強し」
すべて名作である。「星新一の長編に駄作無し」

私が読書を始めたのは、明らかに星新一の影響だった。
その軽妙で、洒脱で、エスプリの効いた文章にやられたのである。
今でも、たまに実家に帰ると読み返すのである。
昔読んだ話を、すっかり忘れている。だから、また楽しめるのである。
その上質な語り口に、思わず夢中になる。

中学生から高校生の頃、そういう小説ばかりを読んだ。
いつしか、それは私のモノの見方を作り出し、ちょっとシニカルで、しかし強制とか体制が大嫌い、という人格形成に大いに寄与した(笑)。
当時の学校は左翼思想が全開だったので(笑)私は徹底的に自由主義、反共思想を持つに至ったわけである。

この本を読みながら、そんな昔のことを思い出した。
あの頃は幸福だったんだなあ、と老いた両親を見ながら思った。

ふと、時間は過ぎ去るのではなく、量子力学的には時空はすべて並行しているという説を思い出した。
あのとき、町に出かけてお小遣いで星新一の文庫を買って帰り、試験勉強のふりをしながら読みふける自分がいる。
その自分が、今でも、ふと、隣にいるような気がした。