Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ブラックボックス

ブラックボックスマイクル・コナリー

私はコナリー信者なので、すでに読む前から素晴らしい作品だと決まっているわけだ(苦笑)。
しかし、コナリーの恐ろしいところは、実際に読んで「そのとおり」なところなんである。
毎試合、きっちりと試合をつくるエース級の実力だ。
今のNPBでいえば、巨人の菅野か楽天の岸みたいなものである。

物語の冒頭は92年のロス暴動。
若き日のボッシュは市内警邏に出かけるが、無政府状態となったロス市内でなすすべもない。
殺人事件が発生し、現場でろくな調べもできないうちに、次の事件が発生するのだ。
このときに発生した事件はほぼ迷宮入りである。
ボッシュは、若い女性ジャーナリストが至近距離から眼球を拳銃で撃ち抜かれて殺害された現場を確認したが、何も出来なかった。

しかし、定年延長で契約しながらロス市警で働いているボッシュは、この過去の事件を再度追うことになる。
アメリカでは、殺人事件には時効がない。(日本でも法改正により、同じになった)
ボッシュは彼女の事件を再捜査するうちに、彼女がデンマークから来たジャーナリストであったこと、そしてロスに来るまでは湾岸戦争の取材をしていたことを知る。
そして、犯行に使用されたベレッタ拳銃は、米軍が大量に湾岸戦争に持ち込んだものだった。
それらの拳銃は廃棄された(大量に集めて爆破し、穴に埋めた)はずだが、なぜその拳銃がロスにあるのか?
さらに、その拳銃が別の犯行に使われていたことが明らかになる。それはギャングの抗争事件だった。
なぜ、ジャーナリスト殺人に使われた拳銃が、ギャングの抗争に使われることになったのか。
ボッシュは、この事件では拳銃こそが「ブラックボックス」だと言う。
すべての事件には、まるで航空機のフライトレコーダーのように、それを見つければ犯罪が明らかになるブラックボックスがあるのだ、とボッシュは言う。
ギャング抗争事件で服役中の囚人に事情聴取したボッシュは、犯行に使われた拳銃を発見する。拳銃こそがブラックボックスだ。
ボッシュは、拳銃のあとを追う。
湾岸戦争で持ち込まれ、処分されたはずの拳銃を持ち帰ったのは、当時、湾岸戦争に出兵した州兵の輸送部隊だった。
そのメンバーが、あのロス暴動の日に、ちょうど女性ジャーナリスト殺害現場を警備していた。
それは偶然か?
ボッシュは、ついに隠された戦場での犯罪が、あの日の殺人につながることを見いだし、犯人グループと対決する。。。


いやあ、まさに練達の筆裁き、ということであるなあ。
随所に盛り込まれた思春期の難しい娘マデリンとのやりとり、数字をあげることしか興味のない上司の無理解も、サラリーマン生活をしていると身につまされるところがある。
世の中、そんなもんだよねえ、という共感をしてしまう。
しかし、そこで終わらないのが主人公ボッシュであって、きっちりと自分の立場を主張しながら事件を解決に導くのである。
だからスーパーヒーローなんだなあ。
アメリカ版遠山の金さん?(笑)
もちろん、コナリーなので、評価は☆☆☆。
まあ、ほんとは☆☆くらいと思うが、いいじゃないか、コナリーだから(苦笑)。

ところで、ボッシュシリーズのひそかな楽しみに、ボッシュが愛聴するジャズCDがある。
特に、今回はアート・ペッパーの死後リリースされたセットが話題にされている。
私も、アート・ペッパーが大好きである。
なんとも言えない哀愁を帯びたアルトの音色が独特である。
本書を読みながら、久しぶりに「ミーツザリズムセクション」(名盤!)を大音量で聴いてしまった。
いい加減にトシを食ってくると、歌が煩く感じるようになり、ジャズだのクラシックだのばかり聴いてしまう。
言葉はいらん、「言葉は本でいいじゃないか」と思ってしまうのである。
こうして、話のわからん頑固ジジイがまた一人出来上がるわけだ(苦笑)。
困ったもんだねえ。