Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

「流」東山彰良

直木賞受賞作品である。
主人公の葉秋生は17歳の大学受験を控えた台湾人だが、祖父は大陸で国民党の兵士であり蒋介石とともに逃げてきた。
一家はにぎやかにたくましく台湾で生き抜いてきたのだが、祖父のしたたかさは今でも群を抜いている。
その祖父が、ある日、店に行ったまま帰ってこない。
秋生が店に行ってみると、祖父は浴槽の中で溺死していた。
あとで警察が司法解剖したところでは、やはり殺されてから浴槽につけられたのではなく、生きたまま浴槽に浸けられて溺死させられたのである。
この事件は秋生の心の中にトラウマを残す。
やがて秋生は幼なじみの2歳年上の女の子、毛毛と付き合い出す。
ところが、その頃、やはり幼なじみの親友、小戦がヤクザと揉める。
秋生は祖父の遺品のモーゼル拳銃を持ち出して小戦に加勢する。そこに叔父さんが登場。叔父さんはヤクザとのいざこざをすべて自分がかぶり、小戦と秋生を逃がす。
叔父さんは2年の服役後、行方不明となる。
小戦は叔父さんのはからいで商船に乗るが「ヤクザより気の荒い」船乗りにたちまち音を上げて、ホンモノの極道に成り下がってしまう。
秋生はほとぼりが冷めるまで軍隊に入るが、2年の兵役を終えて除隊すると毛毛の態度は変わっていた。彼女は他の金持ちの男と結婚する。
秋生は大学受験を再度受けて日本語を覚え、日本との貿易の仕事で働き始めるが、ある日、ついに祖父の殺された事件について真相にたどり着いた。
彼は、事件の真実を求めて大陸の山東省に飛ぶ。


著者はもともと台湾に生まれて、子供の頃に日本に移住した人である。
私も台湾は一度行ったのだが、あのエネルギッシュな感じがよく出ている。
ちょっと生粋の日本人では書けない文章の熱量である。まあ、船戸与一ならこういう文章は書けたが、それは船戸与一だからなので、普通は書けない。
ミステリとしての謎解きの醍醐味は薄い作品だが、そんなのはどうでもよくて、主人公の秋生の成長を描く青春小説であり、国共内戦という激動に巻き込まれた人々のたくましさを描き出した小説でもある。
だから、これでいいのだと思う。

評価は☆☆。
さすがの直木賞

こういう支那人の湧き出すようなエネルギーを存分に書き出した小説という意味では、余華「兄弟」がある。
あっちの熱量は本作の倍くらいある。まあ、分量も倍だけど。
どうも、支那人というのは小説にこめるエネルギーについて、先天的に日本人よりもパワーが有るのかな。
そういえば、支那人作のSFで未読なのだが「三体」という大名作が出ているらしい。
もうすぐ夏季休暇なので、その時間を利用して読んでみようかと思っている。

今や経済、軍事ではすっかり支那に抜かれてしまった日本ですが、文化もどうやら危なくなってきたと感じる。
支那初のゲームやアニメも市場では受けているらしい。
せめて栄光ある没落をするべきだと思うのだが、世の中なかなかカッコよくはいかないものだからなあ。