Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

はるなつふゆと七福神

「はるなつふゆと七福神」賽助。「本のサナギ賞」受賞作。
本のサナギ賞というのは、書店員が選ぶ「これから売れて欲しい本」に与えられる賞のようで、現場での期待値が高いということであろう。それに興味を惹かれて手に取った。

主人公は東京のアパートで暮らす29歳の独身女性、榛名津冬(はるな つふゆ)である。独身でなくなる予定も見通しもない。それどころか、最近、おりからの不景気のために無職になってしまった。
近所の神社に、とりあえずお参りをする。
すると、その夜、その神社に祀られていた寿老人と福禄寿が現れる。どうしてやってきたかというと、お参りの際に津冬がちゃんと自分の住所を言ったからである。住所がわからぬでは来られないと二柱はこぼす。
そして、津冬の本名が「はるなつふゆ」つまり「秋がない」のに大ウケする。あきない、これは縁起がよいと言う。
それではと津冬が職をお願いすると、二柱は、自分たちの願いを叶えてくれたらと条件を出す。二柱は、七福神の中で自分たちの知名度が劣ると気にしており、最近はやりのインターネットでもっと有名にして欲しいというのであった。
さっそくブログだのSNSだのを開設した津冬だが、私生活では久しぶりに会った元同級生の告白現場の立会人にされたり(私に告白じゃないのかよ)ろくなことがない。
さすがにかわいそうになった二柱だが、ご利益的に就職は不得手だと言うので、仲間の大黒天のところに行く。
ところが、大黒天も最近は恵比寿におされてパッとしないのだという。恵比寿は駅名になってビールも売れて、なんだか今風でシュッとしているのだ。
そこで、今度は揃って恵比寿のところに行くが、恵比寿は最近は忙しくて構っていられないという態度を露骨に示す。
怒った大黒天は、麻雀で恵比寿に勝負を挑む。東京近郊の大黒天と恵比寿が揃ってお祭りしてある神社を勝ったほうが独占するという勝負である。
これで大黒天は負ける。
大黒天は姿をくらますが、やがて世の中に厳しい不景気がやってくる。大黒天が怒っているためである。
怒りのあまり、われを忘れて荒ぶる大黒天を、津冬や他の七福神がなんとか鎮めようと奔走する。。。


この賽助さんなる著者は、劇団員でもあるらしい。そのためか、ちょいとドタバタを含んだハートフルなコメディという感じの作品。
軽く読めて楽しい作品であると言える。
評価は☆。
肩のこらない娯楽作品として面白いし、スイスイ読める。

意外なのは、この作品の中で語られる神様に関する知識が意外に正確なこと。
七福神のメンバーの入れ替わりの変遷とか、人々がお参りしない神様は神通力を失ってしまうこととか、あまり人の参拝しない神社を「細い場所」と呼ぶなど、本物の神主さんに取材でもしたのかなと思わせる。
日本の神様というのは、仏様やキリスト教の神様と違ってひどく人間臭いのが特徴で、怒ったり笑ったりする。喧嘩もする。
そういう古来の日本人の宗教観というのが、この小説にひそかに入り込んでいる。そんな意味で、ひそかな神道の入門書(笑)になっていたりするのも味かなあと思います。